その指は甘い、だけではなくて|心を埋める(番外編)

その指は甘い、だけではなくて|心を埋める(番外編)

その指は甘い。だけではなくて(11)

 初めて羽多野に触れられたときは、ベッドの上で動きを封じられ、強引に性器に触れられた。 燃え上がるような怒りと羞恥に、決して許さないと思ったにもかかわらず翌朝、栄は羽多野の口車に乗せられて、性的なものへのコンプレックス解消のために「彼を利用する」ことに同意したのだった。 あのとき...
その指は甘い、だけではなくて|心を埋める(番外編)

その指は甘い。だけではなくて(10)

「一生分……」 羽多野が自らプリンを買い求めるタイプではないことを考慮したとしても、五個、いや十個? しかも「この二日」ということは、栄にはひた隠しにしながら羽多野は、昨晩からずっとプリン作りの練習を重ねていたということになる。 そういえば、昨日からこっち、栄が冷蔵庫に近づこうと...
その指は甘い、だけではなくて|心を埋める(番外編)

その指は甘い。だけではなくて(9)

 それは栄の目から見て、いやおそらくは十人に見せれば十人が「素人が作ったにしてはなかなか立派だ」と評するであろう代物だった。 食器の美しさや果物の品質で下駄を履いている部分はもちろんあるが、プリンの出来映えも盛り付けの塩梅も、実に見事だ。栄がかつて口にした「プリンが好物である」と...
その指は甘い、だけではなくて|心を埋める(番外編)

その指は甘い。だけではなくて(8)

 夕食の後片付けをするつもりで、栄はわざわざダイニングキッチンに戻ってきたのだった。だがテーブルの上はきっちり片付いているし、換気をしたのか部屋からは独特のスパイスやハーブの香りはすっかり消え去っている。それどころかほんのりと甘い香りすら漂っている。 怪しさ満点の状況に、栄はこち...
その指は甘い、だけではなくて|心を埋める(番外編)

その指は甘い。だけではなくて(7)

「ただいま……」 異様な緊張感をもって足を踏み入れた部屋には、コンシェルジュの女性が言っていた「パーティ」の影もかたちもなかった。準備も、痕跡も、なにも。 そこにあるのはただ、うさんくさいほどの「いつもどおりの」空間。男ふたり暮らしにしては清潔で整っているが、隠しきれない男ふたり...