32. 明るい月の夜に
ひどく静かだった。ついさっきまでいた広場の祭りの喧噪、火の粉のはじける音。何もかもが遙か遠く思えるが、そっと目を閉じれば夢のような、炎と光が闇夜に描き出す花の姿が鮮やかにセスのまぶたの裏に浮かぶ。
仕掛けを目の当たりにした集落の人々はひどく驚いているようだったが、その後はどうだろう。もくろみ通りあれを神の使いの起こした奇跡で、クシュナンの言葉が山の神からの伝言であると受け止めてくれただろうか。まばゆい光と地面を覆う煙に紛れてふたりはそのまま広場から逃げ出し、見つからないよう森まで走った。神の使いの小屋にはもはや戻るべきではない。だからもっと森の奥の、以前クシュナンを水浴びさせるのに使っていた滝壺のほとりまでやってきたのだ。