雨を待つ国

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36.  王殺し

銀色の髪に顔を埋めると、そこからは嗅いだことのないようないい香りがした。〈王殺し〉が思ったままを告げると〈少年王〉は「香油だよ」と言う。 「侍女たちが、風呂上がりにあちこちにつけたんだ。髪を梳くときにも使ったからきっと一番強く香りが……あっ」
雨を待つ国

35.  王殺し

鳥の声で〈王殺し〉は目を覚ました。 いつの間にか夜になり、そして朝が来ていたようだ。洞窟の入り口から太陽の光が差し込み〈王殺し〉と〈少年王〉のいる場所もうっすらと明るくなっている。 固い地面に横たわり、しかし疲れ果てているからか〈少年王〉はすやすやとよく眠っている。再びこんな近くで寝顔を眺めることができるとは思わなかった。言葉にならない幸福感に〈王殺し〉は眠る少年の頬を舐めようと顔を寄せ、そこで、異変に気付いた。
雨を待つ国

34.  王殺し

だが、冷たい感触がふたつ、みっつと続くにも関わらず〈少年王〉のことで頭がいっぱいになっている〈王殺し〉はすぐには気づかなかった。 先に声を上げたのは広場に集う人々の方だった。突然鳴りだした北の塔の「鳴らずの鐘」に呆気にとられていた彼らは、自分たちの顔をぽつぽつと水滴が打ちはじめると驚き、天を仰いだ。 「雨だ……」
雨を待つ国

33.  王殺し

王宮の中庭、中央あたりに薪が積み重ねられているのが見える。そのすぐ隣にはまだ寝かされた状態の、木を組んで作った十字架が置いてある。人が火刑に処されるところなど見たことない〈王殺し〉だが、その十字架が何のためのものなのかは容易に想像できた。 自らの首に刃を当てた〈少年王〉の鬼気迫る勢いに負けて〈王殺し〉は牢獄を後にした。もはやあの少年自身は生き延びたいという希望を持っていないこと、何より彼のために周囲の人間が傷つけられることを嫌っている。そんなこと百も承知だ。それでも〈王殺し〉はあきらめきれずに王宮の敷地内に留まった。
雨を待つ国

32.  少年王

「ずいぶん長い間お世話をさせていただきましたが、陛下がこんなにお|転婆《てんば》だったとは気づきませんでしたよ」 腕ごと上半身をロープでぐるぐる巻きにされた〈少年王〉を一瞥して、筆頭賢者は悩ましげなため息をついた。首筋の傷は浅いが、応急処置的に巻かれた包帯には血が滲んでいる。獣が去ると〈少年王〉は約束どおり自分自身を傷つけることをやめてナイフを床に落としたが、すっかり警戒を強めた衛兵隊長により身動きできないようきつく拘束されてしまった。
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