21. 愛を見る

 左右にはしたなく開いたリュシカの脚。その付け根の真っ白い肌に、同じくらい白い液体が飛び散る様はひどくなまめかしかった。

 性に疎いセスにとってはそれだけでも十分刺激の強い光景であったにも関わらず、観衆がはやし立てる声に押されるように、リュシカを膝に載せたままアイクは小瓶の中身を手のひらにあけた。とろりとした液体は性交の痛みを和らげるためのもので、もちろんセスも用途を知った上でそれを調合し彼らに渡した。

 あの一見不釣り合いに見える二人が実は愛し合っていて、契りの儀式に臨むのだという話をスイから聞いたときはひどく驚いた。しかし、アイクとリュシカの間に漂う親密さと奇妙な緊張を思い起こせば不思議ではないような気もしてきた。治療のためアイクの体に触れるセスに、なぜリュシカが「次からは自分がやる」と強く主張してきたのか。あれは、恋人の体に他の人間が触れることを嫌がったからなのかもしれない。

 だが、セスの前ですら控えめな態度を取る彼らが望んで人前で交わりたがるとは思えず、セスは、彼らにそうさせた責任は自分にあるのだと思った。自分の知らない場所で、アイクとリュシカが儀式を行わずにはここに留まることができないような何かが起きたのだと。もしかしたらセスを激しく敵視しているカイたちの仕業かもしれない。

 セスは強く責任を感じて、だからせめて儀式をスムーズに終えることができるよう書物で読んだことのある液体を調合し、二人に渡したのだ。

 アイクの濡れた太い指がリュシカの体の奥に密やかに息づくすぼまりに近づき、そこをくるくるとくすぐる。固く口を閉じているように見える場所が本当に柔らかく緩むのか、あの大男の体の一部を受け入れることができるのか。今は指一本すら入らない狭い場所を見てセスはひどくおそろしい気分になるが、なぜだか目を離すことができない。

 二人は日常的にこういった行為を行っているのだろうか。リュシカのそこはとてもではないが大きなものを飲み込むことに慣れているようには見えない。しかし、交わりを繰り返してもそこの見た目が変わらないのかどうか、経験のないセスにはよくわからなかった。

 不思議なことに、窄まった箇所を撫でられるうちにリュシカの表情はとろけていった。放出の後でいったんはしぼんだ若い雄芯が再び力を取り戻し、紅潮した体が快楽にふるふると震え出す。やがてアイクの無骨な指先が吸い込まれるようにそこにめり込んだ。

 いったん入り口を見つけてしまうと、アイクが優しく、しかし大胆な動きで少しずつそこを広げていくのはそう難しくないようだった。薬草入りの油も効いているのかもしれない。ほんの指先だけが入り込んでいたはずが、第二関節、そして根本まで。そして抽送ちゅうそうする指の動きに合わせてリュシカの腰ももどかしく揺れはじめる。

 あどけなさを残し、ときに無鉄砲なほどの思い切りの良さを見せるリュシカ。セスの目には色事など知らない子どものように見えていた彼が頬を赤く染め、唇から甘く切ない息を絶え間なく吐き、いやらしく体を震わせている。人は抱き合うとき、快楽を得るとき、こんな風になるのか。セスは彼らの痴態に釘付けになった。

 指は二本、三本と増え、それでもアイクはただそこを指でかき回している。その姿にはためらいやおそれが感じられ、セスはもしかしたら彼らはまだ本当にその場所を使って交わったことはないのではないかと疑いすら抱く。だったらこんな場所で、こんな風に晒し者にされて結ばれるのは残酷なのではないか。しかしこの儀式に対する人々の熱狂に割って入る勇気も出ず、ただ遠くから二人の姿を眺めるだけだった。

「おい、さっさとそのでかいのをねじ込め」

「ガキも欲しがってるじゃないか」

 一人、二人と罵声に似た声を飛ばすのが聞こえてくる。もしかしたらあれはカイの声だろうか。人々の興味はもはや、美しいよそ者の少年があの狭い場所に大男の一物をどうやって受け入れるかに集中しているようだった。

 そして、セスは見た。まだ迷い、戸惑い、怯えるアイクにリュシカが大丈夫だとささやきかけ、その耳元に口づける。この先の全てが欲しいのだと、甘い声でねだる。

 アイクが下半身に身につけているものをずらすと、そこからは彼の体格に見合った立派なものが現れた。躊躇しながらも淫らに乱れるリュシカを目にしてすでに我慢も限界だったのかもしれない。赤黒い色をして太く長いそれはそそり立ち、先端からにじむものですでにてらてらと凶暴に濡れて光っていた。

「……おお、あんなのが本当に入るのか」

 誰かが不安そうにつぶやくのが聞こえた。

 しかし、十分な愛撫のおかげか、リュシカのそこは赤黒い切っ先が触れるとゆっくりとした動きで、しかし裂けることも血を流すこともなく長大なものを受け入れていった。先端を含むときは苦しそうにリュシカの眉が寄せられ冷や汗のようなものが額を伝う。しかし張り出した場所までおさめてしまえば少し楽になったようで、そう時間をかけることなく一杯に口を開いたそこは根本まで飲み込んだ。

「すごい、あんな場所でいっぱいにほおばって」

「腹の奥まで届いているんじゃないのか」

 そんな言葉に耳まで赤くしながらアイクとリュシカは少しの間そのまま動かずにいた。アイクは眉間に皺をよせて、すぐにでも腰を振りたいのを必死にこらえているようだった。リュシカの苦痛を少しでも和らげようと胸や小ぶりなペニスをいじる男の姿は滑稽だが健気だった。

「形が……」と、リュシカの唇が動くのが見えた。

「君の形が、わかる」

 その言葉にアイクがぎゅっと眉根を寄せる。必死で興奮を抑えていたであろう男のたかが外れたのがセスにもわかった。

 弾かれたように動き出したアイクは膝の上の体を激しく揺さぶり、締め付ける狭い部分を大きな物がぬれた音を立てながら出たり入ったりする。リュシカの口からあふれる甘い喘ぎはやがて切ない悲鳴に変わる。

 二人はもはや衆人の目など気にしていない。ただ自分たちの世界で、愛情と欲望を確かめ合い、快楽をむさぼっているのだった。

 セスはぼうぜんとしたまま、ふらつきながらその場を離れた。普段とは別人のように、まるで獣のようにむつみ合うアイクとリュシカ。あんな大きなものを受け入れているのにリュシカは快楽に喜んでいた。

 セスはこれまで契りの儀式を見たことはなかったし、むしろ他人の交わりを目にすることに漠然とした恐怖や嫌悪を感じていたといっていい。しかし――さっき見た二人の姿は美しかった。それだけではない。ひとごとなのにこんなにも胸がどきどきして、セス自身の下半身が興奮を示してすらいることに気づいた。どうすればいいのかわからず、勃起を隠したまま小走りで自分の家まで逃げ帰った。

「おい、どうした。ぼんやりして」

 クシュナンに声をかけられセスははっと顔を上げる。セスは食事を持ってクシュナンの住む小屋を訪れていた。

 昨日の夜、アイクとリュシカの契りの儀式を目にした後でセスはなかなか眠りにつくことができず治まらない股間の興奮を自らの手で慰めた。普段はほとんどしない淫らな行為に耽った翌日なので、様子がおかしいことをクシュナンに気づかれたのがひどく気まずい。

 しかしクシュナンはセスをさらに動揺させるようなことを言い出す。

「セス、あの子どもはまだいるのか」

 子ども――それがリュシカを指すのは間違いない。彼の名を聞いた瞬間ぱっと頭に思い浮かぶのは昨晩の艶かしい痴態で、顔を熱くしながらセスは首を縦に振った。するとクシュナンは続ける。

「だったら、明日からあいつを一緒に連れてこい」

 セスは凍りついた。

 一昨日、クシュナンはリュシカを拒んだはずだった。寝床の相手が欲しいわけではないのだとはっきり口にして、だからこそセスは自分の勘違いを恥じて兄にも謝罪したのだ。だが、まさかこの神の使いは気まぐれにもいまさらリュシカに惹かれはじめたのだろうか。――だとすれば神の使いの願いを叶えるのがセスの使命となる。

 もちろん相変わらずセスはそれを嫌だと思うし、アイクという相手を持つリュシカだって、クシュナンの相手は拒むだろう。リュシカには他に愛する相手がいるから、君の相手はできないだろう。その事実をどう伝えようかと困った顔をしているセスを見て、クシュナンは意外なことを言い出した。

「何を妙な想像をしているのかしらないが、連れてくるくらいいいだろう。おまえは喋れないが、文字が書ける。俺は喋れるが、文字は読めない。あのリュシカとかいうガキは、喋ることも文字を読むこともできる。つまり、あいつがいれば俺はおまえと話ができるんだろう」