醒めるなら、それは夢

12. 第1章|1946年・ウィーン

意外にも、というわけでもないがニコはシュルツ夫人の申し出をあっさりと受け入れた。おおかた彼女はひとりで過ごした昨年のクリスマスがどれだけ寂しかったかについてニコに何度も話し聞かせていたのだろう。とはいえ誘いを受けたのは義理立てのためだけというわけでもないのか、クリスマスか、とつぶやくニコはどこか嬉しそうでもある。
醒めるなら、それは夢

11. 第1章|1946年・ウィーン

可能性その一、――ニコは本当にあの晩の出来事を覚えていない。その場合、嘘をついているのはレオ。ニコが覚えていないのをいいことに自分の浅ましい行為をなかったことにしようとしている。可能性その二、――ニコは本当はあの晩の出来事を覚えている。その場合、嘘つきは二人。ニコは、覚えているにも関わらず忘れたふりであの晩の出来事をなかったことにしようとしている。そして、レオもその嘘に便乗しているという意味においては等しく嘘つきである。
醒めるなら、それは夢

10. 第1章|1946年・ウィーン

 固く張り詰めた勃起をニコの薄い臀部に擦り付けると、そこから腰全体にじんわりとたまらない快感が広がっていく。最初は遠慮がちに、やがて強く、レオは快楽を追う行為に夢中になった。唇と手での愛撫に、目こそ覚まさないもののニコがもぞもぞと体を動かしはじめる。気づかれてはいけない。今すぐ手を離してベッドから出るべきだ。冷静な自分が警告を突きつけてくる。しかし、まるで長い禁欲生活の反動であるかのように一度火が着いてしまった欲望は御し難い。
醒めるなら、それは夢

9. 第1章|1946年・ウィーン

いくら痩せているとはいえ大の男二人で眠るにはベッドが小さすぎ、仰向けになることも距離を取ることも難しい。壁に顔を向けるように横向きにしたニコの体に、レオが後ろから寄り添う体勢になる。昼間のことをまだ引きずっているであろうニコが目を覚ましたら怒るだろうか。勝手に着替えさせて、勝手に同じ布団に潜り込んでしまった。不安要素はいろいろとあるはずなのになぜだか心は安らいでいた。緊急時だからしかたなかった、というエクスキューズが準備されていることはもちろんだが、何よりレオは心のどこかでこの状況を喜んでいる
醒めるなら、それは夢

8. 第1章|1946年・ウィーン

「ニコ? おいニコ、しっかりしろ」熱を帯びた体からは完全に力が抜けている。抱きかかえようとするが、か細い上体は意外なほどずっしりと重く感じられた。名前を呼びながら軽い力で何度か頰を叩くとうっすらと両目が開き、充血してうるんだ瞳がかろうじてレオの顔に焦点を合わせる。薄く開かれた唇から熱い息がこぼれてレオの手をくすぐるが、そこから言葉が発せられることはない。