31. 第2章|1938年・ハンブルク

 何を言おうとしているのかもしくは言うまいとしているのか、ユリウスの問いかけにニコは呆気にとられたように口をぱくぱくとさせた。しばらく目を白黒させてようやく言葉を発するが、それは質問に答えるものではなかった。

「ど、どうしたのユリウス。急に変な話して」

 こんなにあわてた様子のニコは今まで見たことがない。だが、ニコが動揺すればするほどユリウスはむしろ落ち着き、強気になってしまう。

「変な話じゃないよ。俺、急に体がおかしくなったのかと思って、すごく怖くてあわてたから。もしニコがまだなんだったら先に知っておいたほうが驚かなくていいかと思って」

 普段なら絶対に出てこないような屁理屈がすらすらと口から飛び出すのが自分でも怖いくらいだった。ニコはすっかり勢いに気圧されながらも、普段しない類の話を突然意気揚々とはじめるユリウスを不審な様子で眺めた。

「第一、そういう話、誰に聞いてくるんだよ」

「……学校で。だって、ニコはレオがいるからそういうことも聞けるのかもしれないけど、俺はひとりっ子だし」

 責めるような言葉にユリウスがわざと拗ねたような返事をすると、ニコはあわてて首を振る。

「し、しないよそんな話、兄さんとも」

 無理やり話を打ち切らないところを見ると、この手の話にまったく興味がないわけでもないのだろう。膝の上でぎゅっと握りしめた拳からはニコの緊張の程度が見て取れる。それから白く細い喉がごくりと動き、なかば独り言のような質問がこぼれ落ちた。

「ユリウスは、もうそういうことがあったんだ……」

 事態が自分の思い描いた方向に向かいつつあることをうっすら認識しながら、ユリウスは首を縦に振る。

「うん」

「それが普通って、言われたの?」

「うん」

 またもや沈黙。そして、硬い表情でずっと正面を眺めていたニコが、おずおずとユリウスの方へ顔を向けてきた。

「あ、あの。僕、おかしいのかな」

「おかしいって?」

「そういうの、ないから。まだ」

 恥ずかしい秘密を明かすように小さな声でニコはつぶやいた。困ったような、照れくさそうな表情に胸の奥をくすぐられるような気がした。

「どうだろう。俺だって最近のことだし。毛とかもまだそんなには」

 ユリウスは自分のペニスの周囲にちょろちょろと生え始めた下生えのことを思い出した。大人の男ほどしっかり生え揃っているわけではない中途半端な姿は正直自分でもみっともないと思う。

 ――そういえば、ニコのそこはどうなっているのだろう。

「ニコ、ちょっとだけ見せてよ」

 ユリウスがにじり寄ると、ニコはぐっと上体を反らせるようにしてあわてたように逃げを打った。

「い、嫌だよ」

「大丈夫だって。ちょっと見たら、変かどうかわかるかもしれないし」

 自分のものが正常かどうかもわかっていないユリウスに、他人のそこの状態が判断できるはずなどない。自分がもはや嘘と出まかせしか口にしていないことがそこはかとなくおそろしいが、些細な恐怖心など欲望の前には儚く消える。

「俺のも見せるから、な」

 ユリウスの強引な態度に押され、ニコはついに小さく首を縦に振った。なんだかんだと幼馴染に成長面で置いていかれていることに不安やコンプレックスを感じているのかもしれない。弱みをたてにとっているにも関わらず、ユリウスの中では喜びが罪悪感に勝った。

「絶対、ズルはなしだよ。ちゃんとユリウスも脱いでよ」

 二人は互いに背を向けて、ズボンと下着を下ろしてから同時に振り向くことにした。ニコはユリウスを信用していないのか、しつこく何度も念を押してくる。

「わかってるよ。俺はもう脱いだ。ニコは?」

「……脱いだ」

「じゃあ、準備いいな。せーの」

 二人は振り返り、正面から向き合う。幼児の頃は夏に裸で水遊びをするようなことも何度かあったが、少なくとも小学校を卒業して以来、ユリウスとニコが互いの下半身を目にするのは初めてだった。

 ニコは、恥ずかしそうにシャツの裾を握りしめてベッドの上に膝立ちしている。ズボンと下着は腿の下あたりにわだかまっていて、肝心の下腹部は完全にむき出しの状態だ。

 ユリウスの目に入ったニコのそこにはまだ隠毛は一切生えておらず、つるんとした股から伸びる小ぶりな性器は先端まで包皮に包まれている。つい最近まで自分の隠部も似たような状態だったにも関わらず、ユリウスは幼さを残したニコの体に妙な卑猥さを感じた。

 緊張しているのか、ニコの白い腹はひくひくと震え、それに合わせて性器もかすかに揺れる。

「あ、あんまりじっと見るなよ!」

 凝視されていることに気づいたニコが不満の声を上げるが、そのニコの目はといえばユリウスの下半身に釘付けになっている。完全とまでは言えないが、ほぼ大人のものに近い形状になった性器に、根元をうっすら覆いはじめている髪と同じ色の陰毛。成長具合だけを見ればニコよりは随分先に進んでいるといっていい。

「ニコだって、見てるじゃないか」

 言い返しながらユリウスは内心ではまずいことになったと思っていた。じっと注がれる視線は、意識してしまえばほとんど物理的なものと変わらない強い刺激となる。自慰以外の経験のないユリウスは何が自分の欲望を高めるのかについて十分理解していなかった。

「だって……」

 明らかに自らのものと違う姿をしたユリウスのペニスからニコは目が離せなくなっている。そして、ユリウスはそれに反応した。自分自身の意思とは関係なしに、そこがピクリと震えた。身体中の血液がその部分目指して流れ出す感覚に襲われる。

 ――まずい、どうしよう。

 しかし、若く未熟な体がそう簡単にコントロールできるわけではなく、ユリウスはニコの視線を浴びながらあっけなく勃起した。

「あー……」

 勃起は完全ではないが、みるみるうちに卑猥に形を変えたそこは明らかに平常時とは異なる角度をつけている。シャツを下ろして隠すべきか、下着とズボンをずり上げるべきか、迷いながら結局どちらもできずユリウスは自己嫌悪に震えた。

 ニコは目を丸くしてユリウスの変化をじっと見ていた。目の前の光景の衝撃に、自らの下半身を晒している羞恥はどこかに消えてしまったらしい。

「ユリウス、それ」

 指摘されて、ユリウスのそこはひときわ角度を増した。

「こういう風になるから、最初はびっくりしたんだよ。でも普通なんだって」

 同性の幼馴染に凝視されて勃起されることが普通なのかまでは、ユリウスは知らない。ただニコの手前、怯んだところを見せるわけにはいかなかった。

「ニコは、なったことないの?」

 それ自体が別の生き物であるかのように頭をもたげ、震える様子を凝視したままのニコに、ユリウスは訊いた。何か気がまぎれるようなことを話していないと頭がおかしくなってしまいそうだった。

 ユリウスの質問に、顔を上げたニコの顔にふっと不安の影がさす。

「ない。変、かな」

「変じゃないけど。でも」

 そう言いながらユリウスはごくりと唾を飲み込んだ。ユリウスの変化に影響されてか、ニコのそこも心なしか少し膨らんだように見える。

「ちょっと手伝ってやると、早く大人になるんだって聞いた」

 もちろんそれはただの出まかせだ。ユリウスが手を伸ばしニコの子どもっぽい性器に触れると、ニコは驚きのあまり変な叫び声を上げてそのままぺたんと腰を落とした。ユリウスも向かい合って座る。

「ちょっとユリウス。待って、待って」

 ニコがうろたえた声で制止してくるが、聞かないことにする。

「だって心配なんだろ。自分が遅いんじゃないかって」

「だからって、そんな……あっ」

 小さなペニスを握った手をゆるりと動かすと、ニコは小さな悲鳴をあげた。意外にも逃げようとしないのはまんざらでもないというよりは、急所を握られている状況に恐怖を感じているからかもしれない。

 ユリウスは自慰するときに最初にするように、優しくニコのペニスに触れた。根拠も確信もないが、自分が気持ちよくなるのと同じようにしてやれば、ニコの体にも同じ変化が訪れるのかもしれないと思った。

「ユリウス、駄目だよこんなの」

「いいから。試しにやってみるだけだって」

 ニコは既に半泣きになっていたがユリウスはそれを無視した。それどころか幼馴染の性器を握りなかばいたぶるようなことをしているにも関わらずユリウスは興奮し、半勃ちだった局部は今では完全な勃起状態にある。

 ゆるゆると包皮を使って擦り立てる。最初は優しく、次第に強弱つけて。すると小さな性器はユリウスの手の中で少しずつ質量と硬度を増した。

「ほら、ニコ、見なよ」

「い、嫌だ」

 嫌がるニコに無理やり皮を被ったまま角度を変えるペニスを見せる。すると自らの卑猥な反応に煽られてかニコはますます硬く熱くなった。しかし、ほぼ完全に勃起してからも先端が出てこない。隠された内側からぬるぬると透明な液体がにじみ出し、包皮は随分と緩んでいる。

 あと少し。ちょっとだけ力をかければきっと、誰にも見せたことない場所が露わになる――ユリウスはその欲望に抗えない。それは初めて意識する他人の肉体への征服欲だった。

「待ってユリウス、そんなに強くしないで。もうわかった。わかったから」

 ペニスを凝視しながら手の動きを強くするユリウスに、ニコは懇願するような声を上げる。だが、ぬるぬるになったそこからは今にも赤い先端がより強い快感を求めて顔を出しそうだし、紅潮したニコの表情は決して本気で怒っているようでもない。

「ちょっとだけ我慢して、ニコ」

 普段のおとなしさに似合わずうるさい抗議の声を上げ続けるニコの唇を、ユリウスは自分の口で塞いだ。そこは妄想していたよりずっと柔らかく、甘く、濡れていた。驚いたように体を震わせたニコの体を左手で抱きしめ。そのままペニスを握る右手にぎゅっと力を込めた。

「――っ!」

 唇を重ねたままで、ニコが堪えきれず悲鳴をあげた。右手につるんとした感触がある。視線を落とすと、包皮がずるりと剥けニコの濡れて光る濃いピンク色の先端が痛々しく露出していた。

 ニコの分だけではぬめりが足りないかもしれないと思い、自分の性器から出た先走りも指先に足し、触れられたことのない敏感な場所をぬるぬると優しく擦り立てた。よっぽど気持ちいいのか、そしてこの先を見ないとお終いがこないことを本能的に知っているのか、ニコはもう抗わなかった。熱く甘い息を短く吐きながらユリウスの肩に頭を預け、快感に身を委ねている。

 咲いたばかりの花のような亀頭はすべすべと指先を楽しませ、小さな口を開いた先端を指の腹でくるくる円を描くように刺激してやると、面白いように新たなぬめりが湧き出した。自分のものを触れるときはただひたすら高みを求めるだけだが、反応を見ながら他人に触れる楽しみはことさらだった。

 とはいえユリウスにもそう余裕があるわけではない。自分のペニスもいつしか痛みを感じるほど強く張り詰めている。結局ユリウスは、ニコを右手で愛撫しながら、空いた左手で自分を握った。怯えて戸惑っているニコにこれ以上を求めるわけにもいかない。

 長い時間が経ったような気がするし、あっという間だったような気もする。ニコは怯えながら、戸惑いながら、それでも最終的にはユリウスに導かれるままに体を任せ、最後は泣きそうな顔と声でとうとう射精した。その姿に煽られてユリウスも達し、普段より量の多い精液がニコの腹を白く汚した。

「ほら、ニコ、大人になった」

 ユリウスが少し自慢げに言うと、ニコは涙をにじませたままユリウスの胸にごつんと頭をぶつけてきた。

「ひ、ひどいよ。こんなこと無理やり」

 責めるような言葉にユリウスは焦る。

「悪い、痛かったか?」

「ちょっと痛かったし……すごく怖かった」

 ごめん、と囁くとユリウスはニコをぎゅっと抱き寄せた。そして、思う。自分がずっとニコに対して抱いていたのは、友達の情なんかではなかったのだと。ニコを抱きしめて征服して自分のものにしたいという欲求。優しくして笑わせたいし、触れて困らせ泣き顔すら見たいという複雑な感情。

 ここに及んでユリウスはようやく自分の初恋を理解した。

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