If they had an unexpected reunion … (07)

 奥まった半個室のスペースを割り当てられたので、広々とした店の中、よっぽどの大声を出さない限り四人の会話が他の客に届くことはない。とはいえ栄には、自分たち四人が店員からどう見えているかが気になった。

 テーブルに、ワインと追加分のミネラルウォーターが運ばれてくる。偶然出くわした友人同士という割に会話も弾んでいない自分たちは奇妙だと思われてはいないだろうか。冷え切った空気にも勘づかれているかもしれない。

 何より不安なのは――過去には家族や親戚との来店を挟むことで、尚人とふたりで来ることが店に与えるかもしれない違和感を薄めていたつもりだが、今日に至っては男四人。年齢もタイプもばらばらで仕事の会食でないことは明らかだ。

 高級な店のスタッフだから態度には出さないが、もしもゲイのダブルデートだと思われていたらどうしよう。そんな不安が湧き上がり、栄はますます落ち着かない。

 というかどう考えても未生と尚人は休日デート中だろうし、自分と羽多野だって……そういう表現を栄は好まないが、恋愛関係にある二人が連れ立って出かけている時点でデートの定義には当てはまる。

 つまりのところダブルデートだと思われたところでそれは勘違いでもなんでもない事実で、だからこそいたたまれない。

「君たちはこのお店にはよく来るの?」

 悶々とする栄の思いなどつゆ知らずといった調子で羽多野が口を開く。

 ずっと不機嫌な栄と未生、戸惑いっぱなしの尚人と違って諸悪の根源であるこの男だけは終始機嫌良さそうだ。まあ、自らこの状況を招いたのだから当然といえば当然なのだが。

 ろくろく面識のない相手から親しげに話しかけられ、尚人がぎこちなく微笑み返す。放っておけ、こんな男の質問に答えてやる必要ない、喉元まで出かかった言葉を栄はなんとかこらえる。

「いや、初めてです。たまにはちょっと素敵なお店で食事したいなと思って。人気のあるお店だからダメ元で電話してみたら、今日なら大丈夫だって。ね、未生くん」

「……ああ」

 長い時間を尚人と過ごした栄にはわかる。イエス・ノーで済む程度の質問に尚人が無駄に長い返事をするのは、激しく緊張しているから。意味もなく隣にいる人物に同意を求めるのは、この場をどう乗り切ればいいかわからないから。なのに、仏頂面のままの未生はろくな助け船を出そうともしない。

 未生の不機嫌は当然だ。いくら鈍感な尚人だって、ここは栄と来たことがある店だと告げてはいないだろう。今の羽多野の質問への「初めてです」という返しも「二人で来るのは初めてです」という意味ならば嘘をついたことにはならない。馬鹿正直な尚人にとってはぎりぎりの言い逃れに違いなかった。

 とはいえ栄と出くわした時点で、未生はこの店についてすべてを察したわけで――もしかしたら食事の同席を許したのはやけっぱち、というより不機嫌ゆえの尚人への嫌がらせだったりはしないだろうか。

 かつては尚人相手にさんざんモラハラまがいの言動行動を繰り返したくせに虫のいい感情だとわかってはいるが、栄は尚人へ適切なフォローをしてやらない未生に対しても腹立たしさを感じた。そんな怒り、隣に座る羽多野への憤りに比べれば豆粒程度ではあるのだが。

「じゃあ、休日デートの邪魔をしちゃった感じかな。ごめん、懐かしい顔を見たらついテンションが上がってしまって」

 ――この男はどこまでしらじらしいことを言い募るつもりだろうか。

 何が「懐かしい顔」だ、何が「ついテンションが」だ。まったくキャラではない。腹の奥にはもっと意地悪い思惑を抱えているのはわかりきっているのに。栄は羽多野を横目でにらむ。

「い、いや……デートだなんて……」

 デートという単語に、尚人の顔はさっと赤く染まった。

 尚人にとって羽多野はたった一度、栄の入院先の病室で挨拶を交わしただけの人間。栄や当時の報道経由で耳にした評判も、はっきりいってろくなものではなかったはずだ。そんな、限りなく遠い距離の他人に突然親しげに話しかけられ、あまつさえ当然のように未生との関係を指摘される。動揺するのは当然だ。尚人は今度こそ本格的に、隠すことなく困惑の表情で未生に助けを求めた。

 栄にできることは、みたびテーブルの下で羽多野の足を踏みつけるくらいだった。ランチとはいえリストランテだからと羽多野はそこそこ高級な革靴を履いてきているはずだが、ぼろぼろになったところで悪いのは踏みつけた栄ではなく余計なことばかりする羽多野だ。

 だが、今回の未生は先ほどとは違っていた。依然として面白くなさそうな顔をしてはいるものの、はっきりとした声色で尚人に告げる。

「別に否定しなくたっていいだろ。デートなんだから。こいつらは知ってるよ、全部」

「えっ?」

 ぎょっとした顔で尚人が羽多野の顔を見た。それから視線を栄に移して、再び羽多野に戻す。

 それから、いかにも尚人らしいためらいがちな様子で――しかし、聞かずにはいられないといった様子で切り出した。

「えっと、そういえば、お二人は……?」

 

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