裸になって、横たわる羽多野の腹のあたりにゆっくりとまたがる。すでに一度性的に達した男の体は熱い。その熱を臀部に感じながら、羽多野が痛みを感じていないことを確認しながらそっと体重を預けた。
「このあたりで、大丈夫ですか?」
「ああ。背中も痛まないし、ちょうどいい」
気まずさに、栄はできるだけ視線を合わせないよううつむいた。顔を上げれば羽多野が何を見ているのか、わかってしまう。
自分はこの期に及んで羽多野の体に障らないかを気にしてやっているというのに、この男ときたら楽しそうに栄の動きを観察しているのだ。さっきはあんなに余裕なさそうだったのに。やっぱり簡単にいかせてやるんじゃなかった。そんな意地の悪い考えすら浮かぶ。
こんな状況なのに――いや、こんな状況だからこそなのか、下着や服の締めつけから解放された栄の性器は硬く反り返って欲望を主張する。久しぶりの恋人の指を待ちわびて、まだ触れられてもないのに視線に反応して震える勃起。居たたまれない気分だ。
「……早く」
このまま放置されるのは惨めだし、何より我慢も限界だ。栄が小さな声で先をねだると羽多野は薄い笑みを浮かべたままで右手を伸ばした。
「っ!」
指先は根元の袋に触れて、そこからつうっと茎をなぞりまずは亀頭までごく軽い刺激を与える。あまりにささやかすぎる愛撫は、だからこそ先への期待を高める。栄は思わず腰を浮かして、羽多野の手に欲望をこすりつけようと動いた。
「ちょっと落ち着け、そんなにがっつくな」
「なっ、そっちこそ、さっきは」
みっともなく息を乱して、いつもより早くに達してしまったくせに。悔しく思いながらも、久しぶりの接触にいともたやすく高揚するパートナーを目の前に浮かれてしまう気持ち自体は理解できる。何しろ栄自身がそうだったのだから。
とはいえ羽多野は、相手の反応に気を良くして簡単に追い上げることを選ぶ栄とは根本的に異なる。きっとこのままゆっくりじっくり、優しく意地悪く、真綿で首を絞めるように触れてくるのだ。想像すると、歓びと絶望ないまぜの感覚が栄の体を焼いた。
敏感なペニスから一度指を離すと、羽多野は今度は手のひらで陰嚢をすくいあげ、ふるふると揺らしながら重さを確かめる。
「重いな。少なくとも数日は抜いてない?」
セックスの感覚があくと、羽多野はこうして栄の欲望の重さを確かめたがる。澄ました顔と素直ではない言葉の奥で栄がどれほど焦がれていたかを、体で直接確認しているかのように。
「羽多野さんみたいに旺盛じゃないですから。それにあなたが……」
「俺がずっと在宅してると、気軽にオナれないか。そりゃそうかもしれないな、君は神経質だし」
たっぷりとした重さを揺らして楽しんでからは、全体を軽く揉み込んで、ふたつの塊を転がす。陰嚢に刺激が加えられると、まるで尿道を精液が押し上げられているかのように、まだろくに触れられてもいないペニスの先から透明な液体があふれた。
「ああ……っ」
性器全体が、普段の数倍は敏感になっているようだ。とろりと流れ出す先走りすら亀頭への刺激になり、栄は思わず甘い吐息を唇からこぼす。たまらなくもどかしく、恥ずかしい。
でも、羽多野は栄に幾度も言葉を使って、そして体を使って教えてきたのだ――恥ずかしいことは、気持ちいい。
とろとろとあふれる液体を指先にすくってから、羽多野は親指と人差し指をくっつけて離し、栄に見せつける。
「ほら、糸引いてる」
「うるさいって」
もちろんそんな言葉で、おしゃべりな男が口をつぐむはずなどない。羽多野は快楽と羞恥に体を震わせる栄を眺め、嬉しそうに続けた。
「先走りがこんなに濃いんだから、今日の君のはどんな味がするんだろうな。楽しみだ」
「……っ」
そう。羽多野はじっくりと嬲りながら栄を追い上げて、耐えきれず出した白濁――きっとそれは、さっきの羽多野に負けず劣らず濃くて、熱くて、量が多い――を当然のように口に運ぶ。薄い唇の間から赤い舌を出して、見せつけるように手のひらのものを舐めとる。羽多野の舌と手のひらの間でねっとりと糸を引くものを嗅ぎ、味わい、捕食者の顔で満足げに笑うのだろう。
そして、辱められているにもかかわらず栄はそんな羽多野の姿にすら興奮を覚えてしまう。だっていま、ちょっと想像してみただけでも。
ぐっとさらに角度をつけて、栄のペニスの先端はもう腹につきそうなほどになっている。自身の言葉が素直ではない恋人を存分に追い上げていることに満足なのだろう、羽多野はようやく待ち望んだ刺激を与えてくれる。血管が浮くほど張り詰めて、カウパーで濡れて光る茎を大きな手のひらで包み、ゆるゆると擦り、同時に左手で亀頭をくすぐる。
「あ、あっ、あ……」
羽多野の腹にまたがったまま栄は本能に突き動かされるままに腰を揺らしはじめる。気持ちいい、気持ちいい、それ以外何も考えられなくなる。
薄い亀裂がぱっくりと開きなまめかしい赤い色をむき出しにする。呼吸するように震える先端の小さな穴からあふれる液体は透明から次第に濁りを増し――やがて栄は全身を震わせて、かすれた甘いあえぎとともに、羽多野の体に白濁をまき散らした。