ボクサーショーツからはみ出た先端だけをくるくると指先で遊ばれ、ときおり思い出したように濡れた布地越しに茎やその下の膨らみをなぞってくる。とにかくじれったくペースの遅い触れ方に、アカリは身も世もなく体をよじる。
これはセックスではない。そして、蒔苗はアカリの痴態をただ面白がっているだけで、本人はそれによって興奮することはない。――ということは、蒔苗自身は高まる欲望に追い詰められることがないのだから、いつまでだって延々とアカリを焦らし、からかい、のんびりと触れ続けることができるのだ。そう、例えば子どもが拾ってきた虫で飽きるまで遊ぶのと同じように。
「わーっ、ダメ。それじゃ俺が死ぬっ」
なんせ相手はまともなセックスを知らない男。長い時間感じさせられ続けるのも辛いのだと、おそらく本人が理解していないのだからたちが悪い。黙っていれば夜が明けるまでいじり倒されそうな勢いだ。
あんなに触れて欲しかったのに、もちろん触れてもらえているのは嬉しいけれど、アカリは普通の感覚を持つ普通の人間だ。適切なペースで高めて適切なペースでフィニッシュさせて欲しいのだ。となれば、自分からリードするしかない。
「ま、蒔苗、取って。それ邪魔だからっ」
アカリが脚をばたつかせると、蒔苗は愛撫の手を止める。
「邪魔って何が?」
「脱がせろよ、それ。くっついて気持ち悪い」
いつまでも布越しに触られていてはたまらないと訴えると、蒔苗は言われたとおりにアカリの下着を脱がせた。大量の先走りは濡れた下着と性器の間で糸を引き、それを興味深そうに眺められるのが死ぬほど恥ずかしかった。
しかも、蒔苗はあらわになった完全勃起状態のアカリのペニスを見て、感嘆の声を上げる。
「へえ、こんな風になるんだな」
「当たり前だろ」
蒔苗は、睡眠薬で眠って反応しないアカリにしか触れたことがないので、ぴくりともしないのが当たり前だと思っていた場所が敏感に反応を返すことに驚いたようだ。そんなことに驚かれるのも複雑な気分ではあるが、気持ち悪がられるよりはまだましなのかもしれない。
さてここからはペニスを擦ってもらってフィニッシュか、と期待を膨らませたところで蒔苗はまたもや予想外の行動に出た。両脚を左右に大きく割り開き、その奥の窄まりに手を伸ばされるとようやく存分に触れてもらえると期待していた性器が驚いたように震える。
「え、そっち?」
「だってこっちが好きなんだろ」
濡れた指が、くるくると窄まった場所を解くように刺激する。そういえばこいつはここに唇を寄せて、舐めたんだった――盗撮した動画の中で、眠るアカリのそこを唇と舌で愛撫していた蒔苗を思い出す。すると、意識しているわけではないのにアカリのそこは、ひくひくと侵入を待ちわびる動きをはじめる。
緩んだ場所の縁を濡れた指が滑る。するとさらにそこは更に迎え入れようとする動きを強くする。もちろんアカリの我慢も限界だ。
「蒔苗、早く、中、擦ってっ」
懇願するとようやく、最初は二本の指が浅く入り込む。表皮とは違う内側の感触を確かめるように最初は浅い部分をぬるぬると擦るだけなので、我慢できずアカリはゆらゆらと自ら腰を動かし始めた。
「気持ちいいんだ?」
「いいっ、だからもっと奥、して。お願い」
「奥が好きなの?」
「好きっ。奥、強くされるのが好き。あと、前も触ってっ」
いくら腰を振っても、指が浅い場所にあるのではアカリは満たされない。アカリはもはや恥ずかしさも悔しさもかなぐり捨てて、ただ強い刺激を懇願した。
切実さがようやく伝わったのか蒔苗は右手の指を三本に増やしてアカリの奥を犯しはじめる。探るような動きは次第にセックスに似た前後の運動に変わり、アカリは快感を高めるために必死で腰を振った。左手は切なく震えるペニスに触れ、ようやくアカリはここにきて、求める刺激に身を委ねることができた。
「蒔苗、あっ、いい。それ、いいっ」
身体中で快楽を貪りながら、しかし背中に触れる蒔苗の体はひんやりと冷たい。
蒔苗は決して今の、生きて動いているアカリには、動画の中で見たような熱い欲望は向けてくれない。ただ、何か別の種類の情熱は見せてくれているような気はする……。
何と呼ぶのかわからないそれは、いつか恋や愛に変わってくれるのだろうか。