33. 焦らす指

 周りだけでなく、と頼んだにも関わらず、蒔苗はしつこく乳暈ばかりを指でなぞり続ける。ポイントを外した愛撫は次第に気持ちよさより苦しさが勝るようになり、アカリは自ら体をずらして胸の先を蒔苗の指先に触れさせようとする。だが蒔苗はすっと手を離し、簡単には求めるものを与えてくれない。

「なんで逃げるんだよ!」

「いや、なんとなく」

 アカリの焦れた声にも飄々としたものだ。とうとう我慢できず、自分で触れようと胸に両手を伸ばすと、今度はその手をつかみ止めてくる。

「邪魔だな」

「……は?」

 意味がわからず抵抗できずにいるうちに、蒔苗はアカリの両腕を背中側に回し、アカリが脱ぎ捨てたTシャツでひとまとめにした前腕部をぐるぐるに巻いてしまった。これで両手の自由は奪われたことになる。

「へ、変態っ」

「変態とは失礼だな、手伝ってやってるのに」

 思わず口から飛び出した言葉に、蒔苗は不満な様子だ。だが、ちょっとオナニー手伝うのにやたら焦らしたり、更には腕を拘束するなんて、これを変態と呼ばずなんと言うのだろう。

「だって、手伝うってこういうのと違っ……」

 後ろから抱き寄せられ、腕の拘束のためにいったん離れた体が再び距離を縮める。アカリの肩にあごを乗せ蒔苗はすっかりリラックスした様子で、自分の指に翻弄される相手の姿を観察している。

「いや、触り方によって反応も違うのかなと思って。これはこれで面白いもんだな」

 これで蒔苗も少しは興奮してくれているのならば、その先の展開に期待ができて嬉しいのだが、アカリの腰のあたりに密着している蒔苗の股間は悲しいほど静かなまま。完全に「新しいおもちゃ」的に面白がられているだけなのかもしれない。

 乳暈ばかりを散々焦らすようにくすぐられた後で、ようやく乳首にも待ち望んだ刺激が与えられる。

「ああっ」

 不意打ちだったので心の準備ができておらず、アカリは思わず大きな声をあげた。ただ軽い力で乳首を弾かれただけなのに、焦らされまくったせいで腰から脳天まで快感が電気のように走り抜ける。

 薄く目を開け視線を下に向けると、蒔苗の左右の手指にアカリの真っ赤に充血して硬く大きくなった乳首が弾かれ、挟まれ、軽くこすられ、潰すようにこねられる様子がつぶさに目に入る。指先で弄られるたびにいやらしい形のそこが、いじましい弾力で指の動きに抗おうとしている。

「あっ、それ、気持ちいいっ」

「気持ちいいってどれが?」

 いくつもの動きのうちどれが快感の源泉なのか探ろうとするかのように、蒔苗が訊く。

「全部、全部だよっ」

「特にどれ?」

「……ゆ、指で挟んで、くりくりってするの、気持ちいい……っ」

「ふうん、これか」

 恥も外聞もなく訴えると、ご褒美のように口にした通りの行為が与えられた。アカリは快感を逃がすためゆるゆると頭を振る。

 キスもしていない。下半身には触れられてもいない。なのにこんなにも感じてしまう自分が少し怖い。

「何これ、すごいな」

 存分にアカリの乳首で遊び倒した男は、ようやく新しい興味の先を見つけたようで、視線をずらして感心したような声をあげる。

「すごいって、何がだよ……」

 蒔苗の見ている先を視線で追ったアカリは思った。ああ、これは確かにすごい、と。

 アカリのグレーのボクサーパンツの前は、ぐっしょりと濡れて色を変えていた。濡れて張り付く布地が限界まで膨張した中身の輪郭をくっきりと浮かび上がらせている姿は、アカリ自身から見ても実に卑猥だ。

「これ、中はどうなってるんだ?」

 胸にあった手が腰まで降りていき下着の前を少し引っ張っただけで、中でぎりぎりまで張り詰めていたアカリの性器は、もう我慢できないといった具合にウエストゴムを超えて先端だけ顔を出した。

 中途半端。で、妙に恥ずかしい。

「やめろよ、そうやって観察するの。恥ずかしいだろ」

「手伝ってやってるのに、がたがたうるさいな」

「せめて黙ってやれよ」

 いちいち冷静な目で観察されるのも、それをわざわざ言葉に出されるのも恥ずかしくてたまらないのだ。でも、感じるのは恥ずかしさだけではなく――。

「明里、ここ真っ赤になって、すごく大きくなって震えてる。それに、割れ目がひくひくって……」

「ば、バカ。変なこと言うな」

 触れられてもいないのに、蒔苗の指摘に呼応するかのように下着から顔を出した先端からとろりとしたものが溢れ出す。

「ほら、言葉だけで感じてる。面白いもんだな」

 蒔苗は勝ち誇ったように言った。