全身がおののく。〈あれ〉がやってくる。〈あれ〉が体に触れる。〈少年王〉は気づけば冷たい石の台座の上に横たわっていた。首筋にぺたりと触れた感触に「ひっ」と小さな声をあげて体をよじるが、黒い影は少しずつ〈少年王〉の体にまとわりつきはじめる。
「い、嫌……」
毎日のことなのに、この恐怖と嫌悪には一切慣れることがない。黒い影は無数の植物の蔓のような形をしていて、それぞれが意志を持った生き物であるかのように自由に動く。全体からぬめぬめとしたと粘液を出しているが、ぬるつく表面からは信じられないほど器用に力強く動き、やがて〈少年王〉が身動きできないよう体を拘束してしまうのだ。
頬、首筋、腕、そしてひざ下。〈あれ〉は手はじめに露出している箇所をぬるぬると滑る。それは侍女たちが〈少年王〉の体を清めるときの無感情で機械的な触れ方とはまったく異なった意図を持つ動きで、くすぐるように軽く通り過ぎたかと思えば、細やかな先端で鎖骨のへこみや足指のあいだを隅々まで確かめてくる。
この異様な「祈り」がはじまったのはいつだったろう。はっきりと日付までは覚えていないが、ただ膝をついて祈りを捧げるだけだった時間に、ある日を境に〈あれ〉が現れるようになった。最初は得体の知れないものと、何が起こるかわからないことへの恐怖だけだった。だが今では〈少年王〉は〈あれ〉が現れたときに何が起こるのかを知っている。だからこそ恐怖と嫌悪は増すばかりだ。
存分に露出した肌を確かめ終えた〈あれ〉はおもむろに〈少年王〉の衣服に隠された部分を目指す。衣装の裾からするすると、すんなりとした脚の曲線を伝うようにして上ってくるそれの目指す場所がわかっているから〈少年王〉は必死に膝を閉じて抗う。しかしか細い体の非力な抵抗を面白がっているかのように何本もの〈あれ〉はばらばらに彼の左右の膝あたりに絡みつき、強い力で一気にその両脚を割り開いた。
「嫌だっ!」
下着をつけていない場所がむき出しになる。誰かに見られているわけでもないのに強い羞恥と屈辱に襲われ〈少年王〉は思わず叫び声をあげた。しかし黒い影は彼の苦痛の声すら糧にするかのようにますます勢いを増す。
服の中に忍び込む間すらもどかしいかのように、未発達の細い〈あれ〉数本が絹地の上から〈少年王〉の胸の先を捉える。薄く未発達な胸部で、服を着ていれば全く気づかれないほどささやかな突起を的確に探り当てたのだ。
「あ、んっ」
薄い布越しに軽い力で引っかかれると思わずはしたない声が出る。胸の先にびくんと痺れるような刺激が生まれ、それはじわりと腹を伝って下腹部まで広がっていく。
「はあっ、あっ、嫌っ」
何度か軽い力で引っかかれるだけで、そこは小さな果実のように膨らみはじめる。〈あれ〉は待ち望んでいたかのように固く凝った乳首をぴんと爪弾いた。何度も繰り返し刺激が加えられると、そのたびに〈少年王〉の体はおののき口からはこらえきれない吐息がこぼれる。〈あれ〉の動きを歓ぶように服の下で熟れきった赤い粒がいやらしく震えるのが自分でもわかった。
乳首が完全に尖りきるのを見計らったかのように「あれ」が先端からねばつく液体を分泌しながら、さらに細い新芽のような触手をいくつも出現させる。それらに四方八方から囲まれれば引っ掻いたり弾いたりするのとは異なる刺激が彼を襲う。快感と背徳感、そして恐怖に〈少年王〉は涙を滲ませながらうめいた。
「あっ、あ、あ……なんで」
せめて自分を辱めるものの正体を見てやろうと視線を下向けると、そこでは自分の淫らに尖った真っ赤な二つの乳首が濡れて透けた絹の上衣を押し上げてふしだらな歓びを主張している。そしてその二つの粒を「あれ」がさもうまそうにちゅくちゅくと吸い上げているのだった。
「……っ」
あまりに情けない自らの姿に〈少年王〉は顔をそらし、ぎゅっと目を閉じた。
しかしもちろん祈りの時間がそれだけでは終わらないことはわかっているし、〈あれ〉にとって上半身への悪戯がただの前戯に過ぎないことも知っている。両膝を開くかたちで固定された脚の間にあるものは、胸への刺激のためにすでに立ち上がりはじめている。それに気付いているからこそ〈少年王〉はますます惨めな気持ちになるのだ。上半身をくすぐる〈あれ〉よりも、脚の内側に入ってこようとする〈あれ〉ははるかに太く力強い。内腿をぬるぬるとくすぐられて〈少年王〉は思わず助けを求め叫んだ。
「嫌だっ。誰か、誰か助けてっ!」
こんなところを人に見られるのは耐えられない。しかしこのまま異形に何もかもを奪い尽くされるのも耐えられない。筆頭賢者でも宰相でも、女官でも衛兵でも、誰でもいいから鍵を開けて。これを引き剥がして。ここから助け出して。必死の思いで叫ぶが、声はただ地下深い石に囲まれた部屋に虚しく響くだけだった。
それどころか、助けを呼んだことを責めるかのように〈あれ〉は〈少年王〉の口の中に押し入ってくる。
「んうっ」
何本もの触手状の〈あれ〉に入り込まれて〈少年王〉はそれ以上大きな声を出すことができない。それどころか「あれ」の表面から出る粘液が舌に絡み、その奇妙な味は舌に、体に、頭に、不思議な痺れをもたらしていく。