7.  少年王

 じわじわと痺れる体の内側に熱が溜まっていった。口の端からだらしなく垂れるのが自分の唾液なのか、それとも散々口の中を蹂躙しつくした〈あれ〉の分泌液なのかもわからない。

「ん。や……」

 思考は中途半端に奪い去られるが、嫌悪までも消えるわけではない。〈少年王〉は、もはや抵抗とも呼べない程度の力ない拒否の言葉をつぶやき、ふるふると頭を振ってなけなしの意志を示した。

 開かれた脚の間を〈あれ〉がくすぐる。やがてそれは脚の付け根まで迫り、より敏感な場所の近くをぬるぬると行き交いはじめる。嫌だ、怖い、やめて。そう叫びたいはずなのに、どこかに相反する気持ちもある。健気にぴんと立ち上がり張り詰めた幼い性器のとその下にあるまだ十分な重さを持たない膨らみ。さらにそこから後ろに辿った場所にある密やかな桃色のすぼまり。〈あれ〉は直接触れることをせず器用に周囲だけを刺激する。未成熟な体をゆっくりひらこうとする動きに最初はただ怯え戸惑っていた〈少年王〉だが、今ではその先に何があるのか知っている。それはただの恐怖ではなく――。

「ああ、嫌。嫌……」

 そう言って体をよじった拍子に、〈あれ〉がふるふると揺れる屹立きつりつの先端をくすぐった。

「あああっ!」

 するりと撫でるような、ごく軽い刺激にすら耐えきれず〈少年王〉は大きな声をあげた。同時に先端から細い飛沫しぶきが噴き出すのを感じる。たったこんな刺激だけで、軽く達してしまった。直接触れられる快感を覚えてしまえば、若い体は正直だ。嫌だ嫌だと思いながらも体は簡単に理性を裏切り、腰はうずうずと揺れてもっと強い刺激を求める。

「なんで。こんなの、だめ。嫌なのに……」

 いよいよ〈あれ〉が〈少年王〉のペニスに絡みつく。くるくると巻きついて絞るような動きをしたかと思えば、敏感なくびれや裏側の筋をぬるぬるとした表面で舐めるように擦ってくる。

「あっ、あっ、あん……」

 先端の小さな穴をくすぐられ射精欲が高まったところで、きゅっと根元を絞られる。高められた性感の逃し場所を失くして〈少年王〉はただただ身悶えた。それだけではない。息も絶え絶えの〈少年王〉を更にいたぶるように〈あれ〉は後ろの小さなすぼまりにまでも侵入を始めた。入り口を確かめるように突かれても固く閉じたままのその場所は、しかし〈あれ〉がとろとろとねばつく分泌液を出し、すぼまりのひだをほぐす動きを続けるうちに、少しずつほころんでいく。

「ひっ。駄目ぇ、そこは」

 ぴちゃぴちゃとふちを舐めるような水音はやがて抽送ちゆうそうへと変わっていく。まずは比較的浅い場所に先端だけをぬぷぬぷと出し入れし、柔らかくなってきたところで一気に奥まで貫かれた。

「あああっ……!」

 こらえきれず大きな声が出た。腹の奥まで太いものが一気に押しいり、不思議と痛みはないもののとてつもない圧迫感が苦痛となって押し寄せる。だが与えられるのはもちろん苦しみだけではない。〈あれ〉は激しい動きの一方、意外なほどの繊細さで〈少年王〉が甘い声を上げる場所を探った。その場所すら見つかってしまえば、不思議とさっきまで苦しかった深い場所すら快楽の源泉へと変わるのだ。

 自分のはしたないあえぎ声と〈あれ〉が体を貪るいやらしい音だけが響く祈りの間で〈少年王〉は身も世もなく乱れながらただ時間が過ぎるのだけを待つ。目尻から一筋涙が伝うが、自分でもそれが悲しみのためなのか、過度な快楽のせいなのかはわからなかった。

 ひときわ太い「あれ」が〈少年王〉の狭い場所を擦り立て、弱い場所をえぐり、高めてくる。性器に絡みついたものがきゅっと絞り出すような動きをすると〈少年王〉はあまりに強い刺激に声すら出せないまま、達した。

「……っあ、んうっ」

 びゅっと白い腹に精液が飛び散り、震える先端から残滓ざんしがぽたぽたとあふれる。〈あれ〉はまるで待ち焦がれていた餌にありついた生き物のように、ぴちゃぴちゃと〈少年王〉の精液に群がり舐めすすった。

 ――気持ち悪い。

 祈りを捧げる神聖な行為というよりはむしろ、悪魔に身を食わせているような時間。一体なぜ。どうして。こんなもののどこが祈りだというのだろうか。これに耐えれば国には雨が降り、民に平穏な暮らしは戻るのだろうか。だが〈少年王〉は、そんな自分の疑いにまともに取り合ってくれる人間はどこにもいないということを知っていた。とりあえず今日の祈りの時間は終わった。しかし、明日になればまた同じことの繰り返しだ。

 さんざん貪り尽くした〈あれ〉は、現れたときと同じようにざわりざわりと音を立ててどこかへ消えていく。再びひとりきりになった部屋で冷たい石台に身を横たえた〈少年王〉はゆっくりと目を閉じた。