こぼれて、すくって

こぼれて、すくって

エピローグ

「……ここの住所、俺が誰に聞いたんだかわかりますか?」  ふてくされた声色で栄が言い返すと、羽多野は「保守連合の誰か?」と間の抜けた返事をする。我慢できずに栄は声を荒げた。 「まさか! 俺がこの世で一番嫌いな相手ですよ」 「それは、俺のことじゃなくて?」  わざとしらばっくれる羽...
こぼれて、すくって

第75話

栄は暗がりの中で目を覚ました。  ひどく疲れている。徹夜で仕事をした次の夕方よりも、三千メートル泳いだ後よりもずっと。背中が痛くて、あちこちの関節がぎしぎしと軋む。それだけではなく尻には腫れたような違和感――そこでやっと、自分が今どこにいて眠る前に何をしたのかを思い出した。  一...
こぼれて、すくって

第74話

上手だとか筋がいいだとか、口先だけの褒め言葉にしたってあまりにセンスに欠けている。わかっているのに思考がとろけ、体は抵抗する力を失っていく。子どもの頃から人に褒められること評価されることだけを目標に生きてきたから、こんな状況でまで甘い言葉に乗せられてしまうのか。 「ん……、うっ」...
こぼれて、すくって

第73話

羽多野の爪が迷うように栄の柔らかい内腿をかりかりと引っかく。さすがに同じような調子で自分の内側に触れられるとまでは思っていないが、だんだんと不安が大きくなっていく。 「やっぱり俺はこういうのは……」  揺れていた心が「止めたい」の方に振れて、栄はそう切り出した。 「こういうのって...
こぼれて、すくって

第72話

「あ、あっ」  一気に先端部分を口に含みじゅっと吸い上げられて、栄は堪えきれずに短い喘ぎ声をあげながら腰を揺らした。  過去に経験した口淫といえば猫がミルクを舐めるような可愛らしくもどかしいものだけだった。だが、羽多野の行為は栄が知るものとはまったく違っている。「美味そう」という...