こぼれて、すくって

こぼれて、すくって

第1話

一見ただの重厚な扉に見えるそれを開け、中に入ると数人が入れる程度のスペースがある。ここから先に進もうとする人間はIDの有無に関係なく誰しも一度立ち止まらなければならない。背後の扉をしっかり閉じてからでないと館内に通じる二つ目の扉は開かない仕組みになっているのだ。 在外公館の特性上...
こぼれて、すくって

プロローグ(後編)

とはいえ今の羽多野が無職だろうが何だろうが栄には関係のない話で、いつまでも定職にも就かずフラフラしている三十路男を見下しはしても別に近況を聞きたいとも思わない。とっさに場を離れる理由を探すが、それを見つける前に先手を取られる。「せっかくだからコーヒーくらいおごるよ。去年クビになっ...
こぼれて、すくって

プロローグ(前編)

「谷口、どうせ暇なんだろ。荷物運び手伝ってくれよ」 元上司だった|友安《ともやす》が内線電話で|谷口《たにぐち》|栄《さかえ》を呼び出したのは、六月も下旬のことだった。 友安は栄が「一年生」つまり産業開発省に入省した最初の年に仕えた係長だった。その後アメリカへ遅めの留学をして、戻...