こぼれて、すくって

こぼれて、すくって

第71話

気まずく視線をそらす栄だが、羽多野はむしろそんな反応を意外に思っているようだった。「ああ……これ? フィットして蒸れにくいから運動するときも楽だぞ。ボクサーなんかより絶対快適だから谷口くんも試してみればいいのに」「結構です」 決してそういう意味で言っているわけではない。栄は大学ま...
こぼれて、すくって

第70話

ロンドンにいた頃はほぼ毎日走っていると言っていたが、裸になった羽多野の上半身はとてもそれだけとは思えぬほど引き締まっている。ここ数週間は運動もせずに酒を飲んでは寝てを繰り返す最低の状況だったにも関わらず。服を着た上からも肩や胸板の厚みなど薄々感じてはいたが、正直予想以上だ。 性的...
こぼれて、すくって

第69話

耳元に熱い息がかかる。羽多野は栄の耳たぶを吸い、そのまま舌を耳孔に滑らせた。と同時にまくり上げたシャツの下に乱暴に手を突っ込んで肌をまさぐりはじめる。「重い……息が苦しい……」 苦痛を訴える言葉は無視され、濡れた音が直接耳から頭に抜けると背中をぞくぞくと寒気に似たものが走り抜けた...
こぼれて、すくって

第68話

腰に回された羽多野の腕がぎゅっと力を増す。眠るための方法、というふたりのあいだではあまりにあからさまな符号を羽多野が聞き逃すはずはない。それなりの覚悟を持って口にしてはみたものの、いざ手放してみれば言葉だけが自分の意思とも感情とも離れたところを漂う心細さがあった。 何か言わなけれ...
こぼれて、すくって

第67話

指先を触れ合わせたまま栄は問う。「俺は、あなたに嫌われているんだとばかり思っていました」 今になってしおらしい顔で「君がいるからロンドンに行った」などと言われても頭から信じる気にはなれない。差し出されたこの手すら、いつもの気まぐれである可能性は十分ある。「嫌いだったよ、憎らしかっ...