サクラ踊る踊る(番外編)

サクラ踊る踊る(番外編)

初恋のその先(後編)

「待って、苦しい」 夢中になって引っ張っていたせいで、首が締まっていたようだ。圭一は和志を押しとどめるとTシャツを潔く脱ぎ去ってしまう。インドア派の圭一の肌は白いが、勤め先のカフェではずっと立ち仕事をしているので体には薄くしっかりとした筋肉がついている。
サクラ踊る踊る(番外編)

初恋のその先(中編)

特に抵抗がないのをいいことに抱きしめる腕に力を込めてみると、その中の圭一はいつもより熱いような気がした。もしかしたらそれも気持ちが昂ぶっている和志の思い込みなのかもしれないけれど。 抱き合うことにはずいぶん慣れた。キスをしようとして前歯をぶつけることもほとんどなくなった。手伝う必要はないと拒む圭一をなだめたりすかしたり懇願したりして、何度も一緒に「練習」だってやってきた。だから、最初はいつもと同じ流れでいいはずだ。ただ普段と同じところでは終わらせない。違うのはきっと、それだけ。
サクラ踊る踊る(番外編)

初恋のその先(前編)

幼馴染の安島圭一が女の子を連れているところを最初に見たときのショックを、澤和志は多分一生忘れないだろう。 正直、何かの間違いだと思った。これは夢か、さもなくばたちの悪い冗談なのだと。 だって、自分はもう十年以上もずっと圭一のことだけを思っていて、なんだかんだと圭一も同じ気持ちでいてくれると信じていたのだ。
サクラ踊る踊る(番外編)

Dance with Cherry(4)

今回こそ、どうやら和志は本気であるらしい。スマートフォンの日付表示をにらみつけて、圭一はため息をついた。 今日は火曜日。カフェの定休日。 つまり、和志が「ちょっと頭冷やすよ」と言い残してこの部屋を出て行ったあの日からは丸一週間経ったことになるが、和志からはこの間電話の一本、一言のメッセージすらない。
サクラ踊る踊る(番外編)

Dance with Cherry(3)

ゲリラ豪雨と呼んで差し支えないような大雨の後は店は盛況で、渋谷と由衣の結婚前の話をそれ以上聞き出すことは叶わなかった。いや、閉店作業や後片付けの間に聞こうと思えばいくらだってチャンスはあったはずだし、聞けば開けっぴろげな性格の渋谷はなんだって答えてくれただろう。 しかし圭一は完全にタイミングを失ってしまった。