醒めるなら、それは夢(番外編)

醒めるなら、それは夢(番外編)

ウィーン再訪編(5)|1961年・ウィーン

さすが高級ホテルのベッドはマットレスの寝心地も良く、不安や緊張を抱えていたはずのニコもあっという間に眠りに落ちていたらしい。目を覚ますと隣の寝台はすでに空で、寝室にまで香ばしいコーヒーのにおいが漂ってきていた。慌てて起き上がるとリビングへ向かう。すでにテーブルにはルームサービスの朝食がサーブされていた。真ん中にある銀色のコーヒーポットがこの良い香りの出所に違いない。
醒めるなら、それは夢(番外編)

ウィーン再訪編(4)|1961年・ウィーン

「そろそろ寝るか」とユリウスに声をかけられ、ニコはソファに座ったまま、すでに自分がうつらうつらしていたことに気づいた。「あれ……僕」じっと見つめてくる緑の瞳はいつもと同じように優しい。 
醒めるなら、それは夢(番外編)

ウィーン再訪編(3)|1961年・ウィーン

案内されたのは街が見晴らせる高層階にある広々とした部屋だった。ホテルなのにリビングと寝室がわかれているし、バスルームだけでもニコとユリウスの寝室ほどの大きさがある。部屋の設備を説明される間もほとんど返事もできずに間抜けに首を縦に振るばかりだった二人は「何かお困りのことがあればいつでもお呼びください」という言葉を残しベルボーイの姿が消えたところでようやく息をつくことができた。
醒めるなら、それは夢(番外編)

ウィーン再訪編(2)|1961年・ウィーン

というわけで、なけなしの貯金に借金を加えてニコとユリウスは自分たちだけの小さな工房を手に入れた。営業や経理といった事務仕事全般と編集はニコの担当、本のデザインや印刷製本はユリウス。分担を決めて一応は会社の体を整えたとはいえもちろん最初から苦労なく仕事が得られるわけではない。
醒めるなら、それは夢(番外編)

ウィーン再訪編(1)|1961年・ウィーン

半日以上かけて幾度もの乗り換えを繰り返し、ウィーン中央駅に降り立つと一気に長旅の疲れが押し寄せた。「ニコ、持とうか?」「ありがとう、大丈夫だよ」疲れを顔に出してしまったことを反省しながらユリウスが差し出す手に礼を断り、ニコは網棚から降ろしたスーツケースを抱えた。