醒めるなら、それは夢

醒めるなら、それは夢

10. 第1章|1946年・ウィーン

 固く張り詰めた勃起をニコの薄い臀部に擦り付けると、そこから腰全体にじんわりとたまらない快感が広がっていく。最初は遠慮がちに、やがて強く、レオは快楽を追う行為に夢中になった。唇と手での愛撫に、目こそ覚まさないもののニコがもぞもぞと体を動かしはじめる。気づかれてはいけない。今すぐ手を離してベッドから出るべきだ。冷静な自分が警告を突きつけてくる。しかし、まるで長い禁欲生活の反動であるかのように一度火が着いてしまった欲望は御し難い。
醒めるなら、それは夢

9. 第1章|1946年・ウィーン

いくら痩せているとはいえ大の男二人で眠るにはベッドが小さすぎ、仰向けになることも距離を取ることも難しい。壁に顔を向けるように横向きにしたニコの体に、レオが後ろから寄り添う体勢になる。昼間のことをまだ引きずっているであろうニコが目を覚ましたら怒るだろうか。勝手に着替えさせて、勝手に同じ布団に潜り込んでしまった。不安要素はいろいろとあるはずなのになぜだか心は安らいでいた。緊急時だからしかたなかった、というエクスキューズが準備されていることはもちろんだが、何よりレオは心のどこかでこの状況を喜んでいる
醒めるなら、それは夢

8. 第1章|1946年・ウィーン

「ニコ? おいニコ、しっかりしろ」熱を帯びた体からは完全に力が抜けている。抱きかかえようとするが、か細い上体は意外なほどずっしりと重く感じられた。名前を呼びながら軽い力で何度か頰を叩くとうっすらと両目が開き、充血してうるんだ瞳がかろうじてレオの顔に焦点を合わせる。薄く開かれた唇から熱い息がこぼれてレオの手をくすぐるが、そこから言葉が発せられることはない。
醒めるなら、それは夢

7. 第1章|1946年・ウィーン

三日後にハンスへ電話をかけたところ、病院の掃除夫をやる気はないかと聞かれた。彼の母親が看護婦として働いている病院で、掃除夫の老人が仕事を辞めることになったらしい。「スイスに移住した息子のとこにいくんだってさ。立ったままの作業が多いから膝が悪いなら少し大変かもしれないが、足腰弱ったじいさんでもなんとかなったんだから大丈夫だろう。なんせおまえは引ったくりを捕まえるくらい元気がある奴だからな。あの身のこなし、まるで軍人みたいだったぜ」
醒めるなら、それは夢

6. 第1章|1946年・ウィーン

街に出ると、最初にウィーンにやって来た日のことを思い出す。列車の窓からシェーンブルン宮殿が見えたときに、ようやく自分は本当にウィーンにやってきたのだと実感した。越境するための正規の書類を持っていない自分たちが本当に国境を越えられるのかが不安で、列車に乗って以降うとうとすることすらできなかった。しかし、ニコがいくらかの現金とたばこを渡すと国境警備のソ連兵は何も言わず二人を見逃した。ほっとして緊張の糸が切れたレオはそこから眠り込んでしまい、ニコに揺り起こされるとそこはもうウィーンだった。