醒めるなら、それは夢

醒めるなら、それは夢

15. 第1章|1947年・ウィーン

長いウィーンの冬もいつかは終わる。仕事を終えて病院を出ようという夕方五時になっても日は沈みきっておらず西の空はまだほんのりと明るい。寒さはまだまだ厳しいものの一番辛い時期ほどではなく、ここのところ気温が零度を下回る日は少なくなってきた。日照時間の短さは人の心身に多分な悪影響を与えると聞く。北に行くほどメランコリーやアルコール依存症が多いというのもあながち嘘でもないだろう。真冬の頃からレオ自身、とりわけ天気が悪くなる前などは偏頭痛に悩まされることが目立つようになった。
醒めるなら、それは夢

14. 第1章|1946年・ウィーン

クリスマス当日、レオは普段どおりに仕事に出かけた。クリスマスだからといって病気や怪我がなくなるわけでも入院患者が回復するわけでもない。当然ながら病院の掃除は必要だ。とはいえこういう日には軽い症状で病院を訪れるような人間は減るものだし、ある程度元気な入院患者の中には一時帰宅をして家族と共に祝祭日を祝おうとする者も多い。外来も病棟も閑散とすれば当然レオの仕事も普段より少なくなるので、いつもより二時間早く仕事を終えることにした。
醒めるなら、それは夢

13. 第1章|1946年・ウィーン

レオとニコは思わず押し黙った。男の告白はあまりに唐突で、そもそも見知らぬ他人に明かしていいようなこととは思えない。一方で、普通はとても口にしないようなことをこうして口にしてしまうこと自体が彼の動揺の大きさを物語ってもいた。「声が大きいですよ」レオが警告すると、男ははっと口をつぐんだ。ラインハルト少年はぐっと唇を噛んで下を向き、子どもながらに必死で屈辱に耐えているような素振りを見せた。
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12. 第1章|1946年・ウィーン

意外にも、というわけでもないがニコはシュルツ夫人の申し出をあっさりと受け入れた。おおかた彼女はひとりで過ごした昨年のクリスマスがどれだけ寂しかったかについてニコに何度も話し聞かせていたのだろう。とはいえ誘いを受けたのは義理立てのためだけというわけでもないのか、クリスマスか、とつぶやくニコはどこか嬉しそうでもある。
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11. 第1章|1946年・ウィーン

可能性その一、――ニコは本当にあの晩の出来事を覚えていない。その場合、嘘をついているのはレオ。ニコが覚えていないのをいいことに自分の浅ましい行為をなかったことにしようとしている。可能性その二、――ニコは本当はあの晩の出来事を覚えている。その場合、嘘つきは二人。ニコは、覚えているにも関わらず忘れたふりであの晩の出来事をなかったことにしようとしている。そして、レオもその嘘に便乗しているという意味においては等しく嘘つきである。