王子と蝸牛|心を埋める(番外編)

王子と蝸牛|心を埋める(番外編)

第7話

キスからはじめるのは新鮮であると同時に特別な感慨を呼び起こす。潔癖の気のある栄が粘膜どうしの接触を嫌がるだろうという先入観があって、体に触れることを許されてからもキスはずっと避けていた。あれでも遠慮していたのだと言ったところで、どうせ信じてはもらえないだろうが。 隠していた過去が...
王子と蝸牛|心を埋める(番外編)

第6話

風呂を終えて髪を乾かして、鏡に映る自身の顔をまじまじと見つめてから念のため剃刀を当てた。髭剃りは毎日朝の一度と決めているが、前回だらしない風貌を責められた記憶はまだ生々しく残っている。爪は日本を出る前にしっかり切ってきたはずだが、念には念を入れて両方の指先をもう一度確かめた。 気...
王子と蝸牛|心を埋める(番外編)

第5話

楽しい酒の席は、ほどほどの時間でお開きになった。昨日からのもやもやをまだ引きずっている羽多野としては飲み足りない気分だったが、アリスとトーマスは明日も出勤なのだから引き止めるわけにはいかない。 椅子を立つとき、コートを着るとき、さりげなくアリスに手を貸すトーマスを眺めれば、微笑ま...
王子と蝸牛|心を埋める(番外編)

第4話

なんだ、そんなことか――というのが正直な感想だった。と同時にこれで栄の不機嫌の理由はすべて理解できた。 羽多野とロンドンで《《正式に》》親密な関係を築くことで職場にあらぬ疑念を抱かれないかという不安に、妹からの目撃情報とやらが上乗せされた結果がこの盛大な八つ当たりというわけだ。「...
王子と蝸牛|心を埋める(番外編)

第3話

「ちゃんと部屋は探すから、君の職場のことは心配しなくていい」 羽多野の譲歩により、到着早々に大喧嘩という最悪のシナリオは避けられた。安堵というよりは拍子抜けして、カウチに背中から倒れこみながら大きく伸びをする。すると寄り添うのを避けるかのように、ちょうど人一人分のスペースを空けて...