ミカドゲーム|心を埋める(番外編)

ミカドゲーム|心を埋める(番外編)

ミカドゲーム(8)

甘く意地悪く囁いてから羽多野が不敵に微笑むと、栄の端正な顔に浮かぶ感情は驚きから、わざとらしい哀れみへと変わる。「……とうとう頭が……」 高熱、酔いの次はついに発狂を疑うつもりだろうか。ワンパターンな反応には食傷するが、よく見ればさっきまでとは異なり、栄の耳元はほんのり赤らんで目...
ミカドゲーム|心を埋める(番外編)

ミカドゲーム(7)

「……そういえば、さっき部屋で飲んでましたよね」 高熱の次はアルコールを疑ってくる。どうやら栄は羽多野の言動を何かのせいにせずにはいられないらしい。要するに「おまえは正気とは思えないレベルおかしなことを言っている」と当てこすっているのだろう。「あのくらいで酔うはずないって知ってる...
ミカドゲーム|心を埋める(番外編)

ミカドゲーム(6)

言うまでもなく、羽多野は最初から怪しんでいた。 突き詰めれば多分一年くらい前。この家に転がり込んで、栄に少しずつ触れるようになった頃に「自衛官の同僚と食事に行く」と言われた、あのときから面白くなかったのだ。曖昧な感覚ながら、すでに当時の自分は栄に対して執着じみた独占欲を抱きはじめ...
ミカドゲーム|心を埋める(番外編)

ミカドゲーム(5)

「すいませんでした、お忙しいところ無理を言って」 トイレを済ませた長尾が玄関先で頭を下げたところで、ようやく地獄のような時間が終わりそうだと栄はほっとした。 しかし気の緩みは余計なひと言を生む。「いえいえ、こちらこそ何のお構いもできず。お礼はそのうちさせてください」 深い意味など...
ミカドゲーム|心を埋める(番外編)

ミカドゲーム(4)

「おい、俺の靴を投げるな」 寝室から響いてくる声は、無視。ここで相手にするとつけ上がってより大きな声で騒ぎ立てるのが羽多野貴明という男だ。こういうときは構わないのが一番。何より栄には余裕がない。 それに「俺の靴を投げるな」という言い分が気に食わない。どの口でそんなことをほざくのか...