心を埋める

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114. 尚人

「待って、未生くん」  名前を呼んで駆け寄ると、未生はうんざりした様子で足を止めた。 「何だよ」  衝動的に後を追ってはみたものの具体的に何を話すか決めていたわけではなく、尚人は口ごもる。 「あ、あの……」  ただ確かなのは、ここで追わなければきっと未生は完全に気持ちを...
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113. 尚人

 いかにも我慢しているといった風にブラックコーヒーを口にする未生の姿を見て、尚人は自然と頰が緩むのを我慢できなかった。  口元の歪みだけで無理をしていることはわかる。出会って間もない頃、尚人を強引に呼び出した未生はコーヒーの苦味が苦手だといって喫茶店で甘い抹茶ラテを頼んでいた。...
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112. 未生

 大きな声を出して要らぬ注目を集めたことで怒らせてしまうのではないかと一瞬不安になったが、尚人は驚きのあまりそれどころではないようだった。耳にした言葉が信じられない様子で聞き返してくる。 「……大学を受け直す? 君が?」  テーブルに座っているのはただの男の二人連れ。それ以上...
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111. 未生

 正直いって、尚人に話しかけるには勇気が必要だった。最後に会話を交わしてからは一年ほども経過している。そのあいだに顔を見たのすらたったの一度で、そのときも玄関で気まずくすれ違っただけだった。いまさらという気持ちは当然ある。  勉強にしろ人生経験にしろ人間関係の築き方にしろ、長い...
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110. 尚人

「本当に、急な話ですみません」 「いえ、あの、顔を上げてください」  心底申し訳なさそうに何度も頭を下げる笠井真希絵を前に、尚人もつられて恐縮してしまう。 「確かにちょっと驚きましたけど、決して謝っていただくようなことではありませんから」  ようやく謝罪をやめて向かいのソ...
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