サクラ踊る踊る 第17話 「渋谷さん、このトマトのやつ美味しいです。魚入ってるの珍しいですね」 「気に入ってくれて嬉しいよ。鯖の燻製入りのラタトゥイユなんだ。燻製だと生臭さがないから青魚苦手な人でも食べやすいし、材料切ってニンニクとオリーブオイルで炒めて塩で味付けするだけだから、作るのも簡単なんだよ」 2018.01.08 サクラ踊る踊る
サクラ踊る踊る 第16話 新しいアルバイトに集中するために「パラダイスカフェ」のサクラを辞めたいと圭一が告げると、高岡は特に引き止めることもなく、最初に話を聞きに行ったマンションの部屋へスマートフォンを送り返すように言った。 「シュレッダーあるんだったらマニュアルはそっちで処分してもいいけど、なければ一緒に送り返せ。絶対に人に見せたり警察に垂れ込んだりするなよ」 2018.01.08 サクラ踊る踊る
サクラ踊る踊る 第15話 アルバイトの後に待ち合わせたのは深夜まで営業している喫茶店で、ひどく緊張してしている圭一は途中何度も引き返そうかと考えた。しかし和志を傷つけることなくすべての問題を解決するにはこれ以外に方法はない。それに——こういうときでもなければ一生、あの番号に電話をかける勇気は出なかっただろう。 帽子を目深にかぶって、まるで怪しい薬の売人か何かのように周囲の様子を伺いながら店に入る。いずれにせよ顔を合わせることになるのだから隠れる必要もこそこそする必要もないのに、気後れしてしまうのだ。 2017.12.31 サクラ踊る踊る
サクラ踊る踊る 第14話 圭一は悩んだ。普段あまり使わない脳みそをフル回転させて悩んだ。 まず頭に浮かんだのは、父親の顔。しかし、フルタイムのアルバイトが決まった息子がようやく真っ当な道を歩き出したと喜んでいる父に向かって、いまこのタイミングで「三十万円貸してくれ」などと口に出す勇気はさすがにない。続いて、渋谷と由衣の人の良さそうな笑顔がちらりと頭をかすめる。 2017.12.30 サクラ踊る踊る
サクラ踊る踊る 第13話 弱音を聞いてくれて相談に乗ってくれてた、年上で頼りになるはずの〈SHIZU〉の正体が和志だった――本来ならばその事実にもっと驚いたり落胆したりするところなのかもしれない。しかし、今の圭一の頭の中は「三十万円」のことでいっぱいだ。 明らかな詐欺で犯罪だと当初は抵抗を感じたはずなのに、いざサクラをはじめてみれば罪悪感は薄れた。そして、〈SHIZU〉に感謝して彼のメッセージを支えにしながら、同時にわかっていながら彼に多大な金銭の負担を負わせた自分はとんでもないクズだ。 2017.12.26 サクラ踊る踊る