雨を待つ国

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31.  少年王

牢の中がうっすらと明るくなってきた。夜が明けようとしている。やがて外が騒がしくなり〈少年王〉は迎えが来るのだろうと覚悟を決めた。「僕はもう大丈夫だから、あの扉が開いたら逃げるんだ。わかったね?」牢番の死体に気づけば人々は今度こそ獣をただではおかないだろう。逃げるなら一瞬の隙をつくしかない。〈少年王〉は強い言葉で何度も言い聞かせるが、獣は不服そうな表情のままでいる。だから〈少年王〉は両手を伸ばして鉄格子越しにぐっとその首を抱き寄せ、ごく近い距離からその目をのぞき込んで念押しをした。
雨を待つ国

30.  少年王

突然、頭上から黄金の雨が降り注いだ。〈少年王〉は同じ光景を前に見たことがあった。部屋の窓から外を眺めていて、王宮の窓に注ぎ込む黄金色に驚いて部屋を飛び出したところであの獣と出会ったのだった。まぶしさに目をしばたかせながら〈少年王〉は美しい光に見とれた。牢の前に座り込んだ牢番も同じようにぽかんと宙を眺めている。しかし光はすぐに消えて、牢の中には再び闇が落ちる。そして……。
雨を待つ国

29.  王殺し

あの少年は生まれついての王などではなかった。むしろ国の平穏のために王に仕立て上げられた哀れな生贄にすぎなかった。老婆の話から導き出された事実は〈王殺し〉の心に大きな衝撃を与えた。それと同時に疑問が湧いてくる。――では、一体なぜ自分はここに呼び寄せられたのだろう。一体なぜあの声は「王を殺せ」などと命じたのだろう。
雨を待つ国

28.  王殺し

兵士たちに追われて必死に王都の外れまで逃げてきたというのに、空が白みはじめると〈王殺し〉は王宮の様子が気になって居ても立っても居られない。いや、もちろん正確には王宮ではなく〈少年王〉のことが気がかりなのだ。白髪白髭の筆頭賢者は、神聖なる少年を犯し辱めた〈王殺し〉に怒りを燃やすのは当然のこととして、被害者であるはずの〈少年王〉に対しても責めるような視線を向けた。国そのものであり神であるはずの〈少年王〉が醜い獣に汚された――それはきっと、あの少年自身に非があるか否かは関係なく国にとって大きな問題になるだろう。心配すべきは肉体に負わせてしまった傷だけではない。
雨を待つ国

27.  少年王

翌日、牢から出された〈少年王〉は審議会の面々の前に引き出された。どうやらまだ獣の行く末は知れないらしい。うまく逃げていればいいのだけれど、と気がかりに思いながらも捜索の結果を訊ねることははばかられた。審議会は、名目上は〈少年王〉の諮問機関ということになっている。名目上、というのは、この国の在り方について決めるのはもっぱら諮問機関の上位者である宰相と筆頭賢者で、〈少年王〉には彼らの決定を追認すること以外が求められた試しがないからだ。