雨を待つ国

雨を待つ国

26.  少年王

〈少年王〉に「あなたは、もはや王とは呼べない」と宣告した筆頭賢者は、せめてもの情けをかけるように自らの羽織っていた衣を一枚だけ投げ与えると、いったん北の塔を出て行った。衣類はすべて獣に破られ着用に耐える状態ではなかったので、〈少年王〉はありがたくそれで体を覆った。獣は逃げ筆頭賢者も出て行き、〈少年王〉だけが取り残された。
雨を待つ国

25.  王殺し

〈王殺し〉は北の塔から少し離れた場所に見つけた茂みの中に潜りこみ長いこと震えていた。自分のやってしまったことがただ怖いと、それ以外なにも考えられなかった。どのくらい経っただろう、気づけば周囲は暗闇に覆われ、やがてその中にぽつぽつと灯りが浮かび上がりはじめた。「おい、いたか?」「こっちには見当たらない」
雨を待つ国

24.  王殺し

目を覚ました〈王殺し〉は、一瞬自分がどこにいるのかわからず混乱した。石の床に腹をつけて、いつのまにか眠っていたようだ。そういえば、粗悪な酒を飲んで眠った翌朝にもこんな気分になったことがあったかもしれない。頭は重く少しばかり痛むが、一方で体の奥がすっきりとしたような感覚もあった。顔を上げると、そこには〈少年王〉がいた。しかしその姿は奇妙としかいいようがない。石の台座の上で上半身だけを起こしているが、その体には何もまとっていないどころか白い肌の至るところにひっかき傷や咬み傷といった、まだ新しく生々しい跡がたくさん残っていた。
雨を待つ国

23.  少年王

祈りの時間の終わりはいつも同じだ。頃合いを見計らって筆頭賢者が北の塔に戻ってくる。だが〈少年王〉が気づくのはいつも彼が部屋の中に入ってきてからだ。なぜなら彼はいつも石の台座の上で揺り起こされるまで意識を失ったままでいるからだ。目を覚ました〈少年王〉は、自分の身に起こっていたことが夢だったのか現実だったのかわからず不安に襲われる。あんなにひどく〈あれ〉に蹂躙されたはずの体はきれいになっていて、身体中を湿ったものに這い回られた痕跡も、何度も搾り取られた精液の飛び散った形跡もどこにもない。ただ、体の奥にはうっすらと熱が残っていて筆頭賢者の枯れて老いた顔を見るのがどうにも気まずく感じられた。
雨を待つ国

22.  少年王

これまでになく沈んだ気持ちで〈少年王〉は祈りの時間を迎えていた。今日、王の挨拶の最中に中庭に集った人々から罵声が飛んだ。彼がバルコニーに立つようになって以来初めてのことだった。歓声をかき消すように発せられた「こんなに雨が降らないなんて、悪魔でも憑いているんじゃないのか」という声は大人の男のものだった。王を讃える声や恵みを求める声をあげていた周囲の人々は、乱暴ではあるものの切実な罵声が飛ぶと同時に黙り、場はしんと静まりかえった。そして〈少年王〉はその静けさを、罵声への賛同だと理解した。