雨を待つ国

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6. 少年王

全身がおののく。〈あれ〉がやってくる。〈あれ〉が体に触れる。〈少年王〉は気づけば冷たい石の台座の上に横たわっていた。首筋にぺたりと触れた感触に「ひっ」と小さな声をあげて体をよじるが、黒い影は少しずつ〈少年王〉の体にまとわりつきはじめる。「い、嫌……」
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5. 王殺し

男は、楢の木の下で目を覚ました。奇妙な声から「王を殺せ」と命令されて渋ったところ、名前と姿を奪うと言われて眩しい光の中で気を失ったことを思い出す。夢をみたのか? あの声こそもう聞こえてこないが、頭がぼんやりして自分の名前を思い出すことができない。名前の代わりに浮かんでくるのは〈王殺し〉という言葉だけだった。
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4. 王殺し

――王を殺しなさい。その声は突然どこからか響いた。時刻は昼過ぎ。煮炊き用の薪を集め、ついでにキノコや木の実、うまくいけば野うさぎくらいは捕まえることができるかもしれないと期待を抱いて男は森に入った。ちょうど|楢《なら》の木の下を通りかかったとき、高い場所にキラキラと輝く黄金の枝が目に入った。金色の枝など珍しい、一体どうしたことだろう。誘われるように手を伸ばし枝に触れたところで刺すように頭が痛み、「王を殺せ」という声が聞こえてきたのだ。
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3. 少年王

ささやかな提案はあっさり却下され、落胆する〈少年王〉を残して、部屋からは次々と人々が去っていく。「陛下、さあ、次はお祈りの時間です」最後にただひとり残った筆頭賢者がおもむろに口を開いた。バルコニーで民衆に手を振ることが二番目に大事な仕事であるならば、神への祈りは王にとって一番大切な仕事だ。同時に〈少年王〉にとっては最も気の重い勤めでもある。
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2. 少年王

「さあ、お時間です」侍従長が扉を叩き、〈少年王〉は覚悟を決めるように小さく深呼吸をしてから小さな声で「はい」と返事をした。「お支度は調いましたか? 民は陛下のお姿にこそ希望を見出すのですから、こうして毎日彼らの前にお姿をあらわすことは大切な王の責務です」