雨を待つ国

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11.  少年王

眠れない。〈少年王〉は天蓋のついた大きな寝台の中で何度も寝返りばかりを繰り返した。午後の祈りのせいで体も心もくたくたに疲れているのに睡魔はちっとも訪れず、不眠は日々ひどくなるばかりだ。「はあ」祈りの時間に〈あれ〉に蹂躙された後はいつも意識を失ってしまう。そして目を覚ますと不思議なことに、乱れた衣服も汚れた体も嘘のように元どおりになっているのだ。まるで〈あれ〉が現れたことなどただの夢だったかのように。
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10.  王殺し

「やめておくれ、別に悪いことはしちゃいないよ」老婆は果敢にも言い返すが、形勢不利であることはあまりに明白だ。「うるさい。ここは王都、神のお住まいになる場所だ。乞食が商売するような場所じゃない。ぶっ殺されたいか、老婆め」
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9.  王殺し

だが、男たちについて入り込んだ王宮の中庭で、バルコニーに現れた頼りない人影に向かって人々が歓声を上げるのを見て〈王殺し〉は目を疑う。――子どもじゃないか。年の頃は十四、五だろうか。それは線が細い、まるで女のような顔をした少年だった。王という名称から想像していた凜々しさ、荘厳さ、ふてぶてしさ、そのいずれも欠片すら持ち合わせていない子どもが、いかにもお仕着せの美しい衣装を着て不安そうにまつげを震わせている。
雨を待つ国

8.  王殺し

逃げるように西の果てを飛びだして、最初は深い森を走った。森は暗く早く駆けるには邪魔な障害物も多いが、今思えば長い旅路の中では一番過ごしやすい場所だった。あちこちに食用できる木の実がなっていて、野うさぎや野生の小鹿といった小動物を捕まえることもできるので食うに困ることはなかった。何よりそこにはほとんど人間の姿がなかったので、この異様な獣の姿を気にすることなく過ごせた。
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7.  少年王

じわじわと痺れる体の内側に熱が溜まっていった。口の端からだらしなく垂れるのが自分の唾液なのか、それとも散々口の中を蹂躙しつくした〈あれ〉の分泌液なのかもわからない。「ん。や……」思考は中途半端に奪い去られるが、嫌悪までも消えるわけではない。〈少年王〉は、もはや抵抗とも呼べない程度の力ない拒否の言葉をつぶやき、ふるふると頭を振ってなけなしの意志を示した。