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90.  栄

未生のことをやり込めてやったはずなのに、気持ちはひどく疲れていた。家に着いたところで何もやる気にはなれないことがわかっていたから、栄は帰りに弁当屋に寄った。着たままのスーツに皺が寄ることも気にせずソファに横たわってぼんやりしている栄を見つけて、帰宅した尚人は不安そうな表情を見せる。
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89.  栄

「は? 何でナオがおまえの家に行かなきゃならないんだよ。ふざけるな」まっすぐこちらを向いた未生のつむじに向かって栄は吐き捨てた。ついいまのいままでしおらしいことを言っていたが、結局目的はこれか。おとなしく話を聞いてやったことがひどく馬鹿らしく思える。
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88.  栄

十五分ほど経ったところで未生はやってきた。入口すぐのところで立ち止まりきょろきょろと店内を見回しているので栄は仕方なく片手を上げて合図をした。デニムに、スウェット地のカジュアルなジャケット姿の未生は改めて眺めても確かに見目は悪くない。だが全体から漂う軽薄な雰囲気はどこからどう見ても自分や尚人と関わりを持つようなタイプとは一線を画している。そのことで栄は不安や怒りよりもむしろ、心の落ち着きを覚えた。
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拍手&コメント御礼

本日もメッセージありがとうございました。使える時間短めなので展開がちょっとゆっくりですみません。直接対決(?)がちょうど週末に当たるのでじっくり書けそうで良かった。
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87.  栄

栄は完全に虚を突かれた格好だった。「えっと、いま何て……」一瞬聞き間違いかと思い、言葉に詰まりながら間抜けに聞き返す。すると相手は、自分の声が小さくて聞き取ってもらえなかったとでと思ったのか、さっきよりもはっきりとした口調で繰り返した。「笠井未生です。前にうちの父親……笠井志郎のパーティで会った」ここまではっきり名乗られると間違いなどあるはずもない。栄は自分がいま、この世で一番憎らしい相手と電話を挟んで向き合っているという現実を渋々受け入れた。