神を屠る庭

32. 明るい月の夜に

ひどく静かだった。ついさっきまでいた広場の祭りの喧噪、火の粉のはじける音。何もかもが遙か遠く思えるが、そっと目を閉じれば夢のような、炎と光が闇夜に描き出す花の姿が鮮やかにセスのまぶたの裏に浮かぶ。仕掛けを目の当たりにした集落の人々はひどく驚いているようだったが、その後はどうだろう。もくろみ通りあれを神の使いの起こした奇跡で、クシュナンの言葉が山の神からの伝言であると受け止めてくれただろうか。まばゆい光と地面を覆う煙に紛れてふたりはそのまま広場から逃げ出し、見つからないよう森まで走った。神の使いの小屋にはもはや戻るべきではない。だからもっと森の奥の、以前クシュナンを水浴びさせるのに使っていた滝壺のほとりまでやってきたのだ。
お知らせ

「神を屠る庭」完結しました

最後までお付き合いいただいた方々には、ただただ感謝です。「雨を待つ国」でメイン2人が会話できない設定は書くのが辛い、と学んでいたはずなのになぜか同じ轍を踏んだ本作。複数カップルが出てくる話というのも初挑戦で、結果的にはバランス悪くなったりと反省点は多いのですが、ともかく完結させら...
神を屠る庭

31. 神を屠る庭

そして、山の神の祭が行われる日がやってきた。 昼過ぎに広場でスイが鳴り物を叩く。それが合図だった。色鮮やかな布や花で飾り付けられた祭壇が広場の真ん中に置かれているが、その上にはまだ誰の姿もない。人々はただ楽しそうに着飾り、歌い、踊り、飲み食いしている。広場の隅では、この日のために...
サクラ踊る踊る(番外編)

騒々しい週末

「ほのか、あなたにはお兄ちゃんがいるのよ」物心ついた頃から、ことあるごとにママはそう口にした。わたしがまだ見たことがない「お兄ちゃん」の話をするときのママはいつだって甘ったるい声色で、でも目には見えない大きな岩に押しつぶされているような辛そうな顔をするものだから、どう反応したらいいかわからなくていつだってただ黙って話を聞いていた。
お知らせ

拍手&コメント御礼

拍手からメッセージくださった方、ありがとうございました。「神を屠る庭」はあとちょっとだけですが、最後まで楽しんでいただければ嬉しいです。もちろんその次に書く話もしっかり準備中です!