雨を待つ国

4. 王殺し

――王を殺しなさい。その声は突然どこからか響いた。時刻は昼過ぎ。煮炊き用の薪を集め、ついでにキノコや木の実、うまくいけば野うさぎくらいは捕まえることができるかもしれないと期待を抱いて男は森に入った。ちょうど|楢《なら》の木の下を通りかかったとき、高い場所にキラキラと輝く黄金の枝が目に入った。金色の枝など珍しい、一体どうしたことだろう。誘われるように手を伸ばし枝に触れたところで刺すように頭が痛み、「王を殺せ」という声が聞こえてきたのだ。
雨を待つ国

3. 少年王

ささやかな提案はあっさり却下され、落胆する〈少年王〉を残して、部屋からは次々と人々が去っていく。「陛下、さあ、次はお祈りの時間です」最後にただひとり残った筆頭賢者がおもむろに口を開いた。バルコニーで民衆に手を振ることが二番目に大事な仕事であるならば、神への祈りは王にとって一番大切な仕事だ。同時に〈少年王〉にとっては最も気の重い勤めでもある。
雨を待つ国

2. 少年王

「さあ、お時間です」侍従長が扉を叩き、〈少年王〉は覚悟を決めるように小さく深呼吸をしてから小さな声で「はい」と返事をした。「お支度は調いましたか? 民は陛下のお姿にこそ希望を見出すのですから、こうして毎日彼らの前にお姿をあらわすことは大切な王の責務です」
醒めるなら、それは夢

72. 第4章|1943年・アウシュヴィッツ

呼び出されたユリウスが部屋に入ると、リーゼンフェルト大尉は渋い顔をして座っていた。ばれたな、と思うが自分から口を開くことはせず黙って相手の出方を待つことにする。「シュナイダー、勝手なことをしたようだな」「何のことでしょうか」
雨を待つ国

1. 少年王

――西から〈王殺し〉がやってくる。このところ王都には、そんな噂が流れているらしい。西の果ての蛮族が住む場所から、怪力を持つ大男が王を殺すためにやってくるのだと。だがしかし、本当にそんな男がやってくるのか。そもそも西の蛮族にしたところで、その存在はまことしやかに語られているものの、彼らの住む場所は王都からあまりに遠くはなれているからこれまで誰ひとりとして姿を見たものはいないのだ。