醒めるなら、それは夢

61. 第4章|1943年・アウシュヴィッツ

  列車の中からなかば押し出されるようにしてよろめきながら飛び出てきた、それがニコだということは目をこらすまでもなくわかった。どんなに遠くても何年離れていてもユリウスにはニコを見分けることができる。それが単なる思い込みやうぬぼれではなかったことに自分でも驚いた。だがそれはユリウスに特殊な能力が備わっているからではなく、身長こそ多少は伸びているもののニコの全体的な背格好や身のこなしなどが驚くほど変わっていなかったからなのかもしれない。
醒めるなら、それは夢

60. 第4章|1943年・アウシュヴィッツ

「どういうことだ、それは!」ユリウスは思わず伍長を怒鳴りつけた。ポーランド占領時にクラクフにいたニコは、そのまま街に留まっているに違いないというのがユリウスの考えだった。ニコのことだから居場所が変われば必ず知らせて来るに違いない。クラクフに住むユダヤ人は全員ゲットーに入れられているはずだから、そこへ行けばニコが見つかるのだと期待してここに来た。
醒めるなら、それは夢

59. 第4章|1943年・アウシュヴィッツ

着任初日に変わり果てたダミアンと遭遇するという想定外の出来事はあったものの、ユリウスの収容所での生活は静かにはじまったと言っていい。あの日以降ダミアンの姿は見ていない。気になって翌日に医務室に行ったがすでに姿はなく、居場所を訊ねると軍医はつれなく首を振るだけだった。ここでは多くの隊員が任務についている。ひとりひとりの所属や宿舎割当など把握していないのは当然のことだった。もちろん大けがや大病であればカルテを書き人事に報告もするだろうが、気分不良程度では特段申し送りもないのだという。
醒めるなら、それは夢

58. 第4章|1943年・アウシュヴィッツ

「ダミアン……?」震えながら絞り出すように謝罪を口にする、それはユリウスの知るダミアンとは別人のように見えた。あれだけ強く親衛隊員になることを夢見ていたダミアンに一体何が起きてしまったのか。そして、なぜユリウスがダミアンを恨むなどと言うのか。
醒めるなら、それは夢

57. 第4章|1943年・アウシュヴィッツ

きんと冷えた空気が澄み渡る冬晴れの日に、ユリウスは長いこと熱望した旧ポーランドの地に足を踏み入れた。後生大事にしているニコからの真っ白なハガキに押された消印の地クラクフとはいかないが、そこからはほんの六十キロほどしか離れていないアウシュヴィッツへ。武装親衛隊のジープが荒れた道を走り続ける、普通なら退屈で不快であるはずの時間すらユリウスにとっては喜びだった。