醒めるなら、それは夢

醒めるなら、それは夢

40. 第3章|1939年・ハンブルク近郊

ついさっきまで視界は真っ暗だったが、厚い布地越しに差し込んでくる光のおかげでようやく少しだけ周囲が見えるようになってきた。夜が明けたのだ、とニコは思う。一睡もできないまま夜を越え、朝になった。これまで眠らずに朝を迎えたことなど一度だってないのに、神経が高ぶっているせいか落ち着かない環境にいるせいか眠気はまったく襲ってこない。
醒めるなら、それは夢

39. 幕間|1948年・ウィーン

「レオ、郵便が来ているよ」老婦人がテーブルの上に封書を置く。〈レオ〉――そう名乗るのはもはや正確ではないのかもしれない、しかし今手にしているのは「ドイツ出身のユダヤ系難民であるレオポルド・グロスマン」としての身分証のみだから、とりあえず対外的にはその名を名乗る他にはなかった。
醒めるなら、それは夢

38. 幕間|1947年・ウィーン

挨拶もなしに部屋に駆け込んできたハンスが「大変だ、レオが倒れた!」と叫んだとき、ニコは驚きと恐怖のあまり心臓が止まるのではないかと思った。大家の部屋に泊まったラインハルトを家まで送り、そのまま仕事に行くのだとレオ――正直言ってこの名前にはまだ馴染まないが――が部屋を出て行ってから三時間ほどが経過していた。
醒めるなら、それは夢

37. 第2章|1939年・ハンブルク

「今日の午後、急に兄さんが連れて行かれたんだ」震えながら事情を説明するニコの言葉はほとんど耳に入ってこなかった。もやのようにおそろしい想像が渦を巻き、ユリウスの頭の中ではっきりした形を作ろうとしている。「――それで、危険だからって」
醒めるなら、それは夢

36. 第2章|1939年・ハンブルク

ユリウスはその晩、熱を出した。頬の腫れはたいしたことはなくすぐに引いたが、精神的なショックの影響なのか熱が下がらず翌日からは学校を休んだ。多少の風邪や腹痛では休むことを許してくれない父親もさすがに高熱にうなされる息子をベッドから引きずり出すようなことはしなかった。ユリウスはひたすらベッドの中で悪夢にうなされた。夢にはいくつものパターンがあり筋書きは目を覚ますとすぐに消えてしまうが、どれも結末は同じだ。しかも結末だけは目覚めた後もしっかりと生々しく頭に残りユリウスを苦しめる。