醒めるなら、それは夢

醒めるなら、それは夢

30. 第2章|1938年・ハンブルク

「最近、兄さんがちょっと変なんだ」珍しくユリウスの部屋にやってきたニコが切り出した。ひとしきり勉強を終えたところだった。ニコはユリウスのベッドに腰掛け、ユリウスは自分の勉強机に座ったままニコの方を向いてとりとめもない雑談をしていた。普段はニコの家で会うことの多い二人だが、今日はニコの側からユリウスの部屋に行っていいかと聞いてきた。夏休みの昼間だから父親はいないし、家政婦の女性はユリウスの行動には干渉しない。特に断るような理由はなかった。
醒めるなら、それは夢

29. 第2章|1938年・ハンブルク

ユリウスは自らの体の異変に驚き、恐怖した。何か悪い病気にかかってしまったのか、もしかしたらふしだらなことを考えたから悪魔にでも取り憑かれたのか。学校がやっている時期だったら図書館で調べるとか――もしくは恥を忍んで医務室の先生に相談――いや、それはいけない。しかしともかく今は学校は夏休みだし、父の留守に書棚をあさってみたが子どもの病気に関する本は見つからなかった。
醒めるなら、それは夢

28. 第2章|1938年・ハンブルク

「ユリウス・シュナイダー」教師が名前を読み上げると教室にぱらぱらと拍手の音が響く。ユリウスは七年生の学期末に成績優秀者の表彰を受けた。軽く一礼して表彰状を受け取ると足早に自分の席に戻る。こういったイベントには慣れていないのでどういう風に振る舞えば良いのかがわからず、一刻も早くこの落ち着かない時間が終わればいいと願った。
醒めるなら、それは夢

27. 第2章|1935年・ハンブルク

ユリウスはそのとき初めてニコが泣くのを見た。これまで悪童たちからひどい言葉をかけられても数日前まで仲良くしていたクラスメートから露骨に避けられるようになっても我慢強く黙っていたニコが、とうとう泣いたのだ。声を殺してぽろぽろと涙をこぼすニコに、ユリウスはどう振る舞えば良いのかわからない。ただじっと眺めていることしかできず、何もできない自分を情けなく思った。
醒めるなら、それは夢

26. 第2章|1935年・ハンブルク

ナタリーがドイツを離れることになった。想像もしなかったといえば嘘になる。普段なら夕食の片付けを終えたらすぐに帰ってしまうナタリーが、遅くまで残って父親と話をしているのをこのところよく見かけた。何か良くないことが起こりはじめていることには気づいていたが、ユリウスは怖くて自分から確かめることができずにいた。「ユリウス坊ちゃん、たいへん申し訳ありませんがナタリーはお暇をいただくことにしました」