醒めるなら、それは夢

醒めるなら、それは夢

75. 第4章|1945年・アウシュヴィッツ

一九四五年一月、アウシュヴィッツの閉鎖が決定された。接近するソ連軍に発見されるのも時間の問題なので、今のうちに施設を破壊して撤退すべきという上層部の判断によるものだった。東からの移送者が増え、管理も行き届かなくなったアウシュヴィッツの状況はすでに半年ほど前からコントロールできない状況になっていた。前年の秋にはガス室の運営を担当させられていたゾンダーコマンドの一部が反乱を起こし数名の職員が殺害された。もちろん反乱の首謀者たち全員が鎮圧後すぐさま処刑されたが、ユリウスの目にこの事件はアウシュヴィッツ崩壊の合図であるように映った。
醒めるなら、それは夢

74. 第4章|1944年・アウシュヴィッツ

ユリウスは額に冷たいものが押し当てられるのを感じていた。目を開くまでもない、それが銃口だということはわかっている。ニコは今どんな顔をしているのだろうか。最愛の相手が激しい憎しみに燃えた目で自分を見下ろしている姿を想像してみるが、不思議と気持ちは穏やかだった。
醒めるなら、それは夢

73. 第4章|1944年・アウシュヴィッツ

一日一日は重く長く憂鬱で、しかし振り返ればあっという間に過ぎていく。短い夏が終わり再び長く暗い冬がやってきて、また終わろうとしている。「最近、東からの移送が増えているらしいな」
醒めるなら、それは夢

72. 第4章|1943年・アウシュヴィッツ

呼び出されたユリウスが部屋に入ると、リーゼンフェルト大尉は渋い顔をして座っていた。ばれたな、と思うが自分から口を開くことはせず黙って相手の出方を待つことにする。「シュナイダー、勝手なことをしたようだな」「何のことでしょうか」
醒めるなら、それは夢

71. 第4章|1943年・アウシュヴィッツ

見知らぬ看守に引き渡されたニコは、今までいた場所よりはよっぽど清潔な建物に連れて行かれた。看守は石けんのかけらとタオルを投げるようによこすと、まずは体を洗って着替えるように言ってニコをシャワー室に押し込んだ。とうとう死期がきたのだとニコは思った。