醒めるなら、それは夢

醒めるなら、それは夢

55. 第3章|1943年・クラクフ

夜明けまで眠れず過ごしたが他に名案は浮かばず、ニコはイツハクを訪ねることを決めた。ユリウスとの行為を宗教的にも社会的にも許されないことだと怒った兄は、今ニコがやろうとしていることを知ったらなんと言うだろうか。母と妹を守るためであれば、ひどくは叱られないだろうと自分を慰めた。
醒めるなら、それは夢

54. 第3章|1943年・クラクフ

「おい、近々また大きな移送があるらしいぞ」「本当か? 規模はどのくらいになるんだ」「わからない。ただ今までとは比べものにならないって話だ。評議会の関係から聞いたから多分ただの噂じゃないな」
醒めるなら、それは夢

53. 第3章|1943年・ベルリン

ソ連との膠着する戦況が大きく変化したのは、一九四二年の冬のことだった。スターリングラードの制圧をほぼ成し遂げたと思われたところで、ソ連赤軍が大規模な反撃に出てドイツ軍をすっかり包囲してしまった。いくら強固な軍であっても、主要な補給経路を押さえられてしまえばなすすべもない。形勢は完全に逆転し、年が明けて間もなくドイツ部隊は投降した。
醒めるなら、それは夢

52. 第3章|1942年・ベルリン

「さすがにきつかったな」カスパーが、糸の切れた操り人形のようにベッドに倒れこむ。「死ぬかと思った。戦場で死ぬならともかく訓練で死ぬなんかありえないよ。いくら実践形式だと言ってもやりすぎだ」
醒めるなら、それは夢

51. 第3章|1941年・クラクフ

ニコの大叔母はゲットーで二度目の冬を迎えることができなかった。まずは寒気を訴えて高熱を出し、体にぽつぽつと発疹が出てきた頃にはニコと母親はそれが発疹チフスであることに気づいていた。「お医者さんを呼ばなきゃ」そう訴えるレーナに、母は悲しそうに首を左右に振った。「レーナ、お医者さんを呼ぶ必要はないわ」