醒めるなら、それは夢

醒めるなら、それは夢

50. 第3章|1941年・ベルリン

新学期が始まって二週間ほどがたったある日のことだった。夕食後にラテン語を教えてもらう約束になっていたのに、マテーウスがなかなか戻ってこない。ユリウスは基本的に外国語全般が得意でないが、特にラテン語には見るのも嫌になるくらいの苦手意識を持っていた。ハンブルクのギムナジウムに通っていた頃は内容も初級程度だったためまだましだったが、ナポラにやってきて以降はレベルの高い授業になかなかついていけず、落第しないだけで精一杯といった調子だ。
醒めるなら、それは夢

49. 第3章|1941年・ハンブルク/ベルリン

夏の休暇にユリウスはほぼ一年ぶりにハンブルクに戻った。とりたてて郷愁があるわけではないが実家以外に行く場所もない。それに、もしかしたらニコから新しいはがきが来ているのではないかという期待もあった。しかし家にあったのはナタリーからの手紙が一通だけで、父が不在の隙を狙って書斎もひととおり漁ってみたが、ニコからの連絡の形跡は見つけることができなかった。
醒めるなら、それは夢

48. 第3章|1941年・クラクフ

眩しくてニコは目を覚ます。この部屋にはカーテンがないから夜明けが早まるにつれて目覚めの時間も自然と早まってしまう。体はいつもくたくたに疲れているからできることならもっと寝ていたいのだが、常に神経が高ぶっているせいで毛布を頭まで被っても二度寝をするのは難しい。この部屋に欠けているのはカーテンだけではない。小さな台所にかろうじて煮炊きのできる小さなストーブと水道、あとは狭い居室にベッドがあるだけで、それ以外の人間の生活に必要なもの――ほとんどすべてが欠損している。
醒めるなら、それは夢

47. 第3章|1941年・ベルリン

意外にも、ユリウスはナポラでの生活に馴染んだ。ひとりっ子のユリウスにとって集団生活は不安でしかなかったが、同じ部屋で四人もの人間が寝起きすることにも、風呂やトイレを赤の他人と共用することにも、始終誰かしらが近くにいてろくろくひとりになる時間すら持てないことにもやがて慣れた。
醒めるなら、それは夢

46. 第3章|1940年・ベルリン

ユリウスはカスパーを殴ったが、カスパーもユリウスを殴り返した。理由が理由なだけにどうしたらいいのかわからずラルフがおろおろしているところに、戻ってきたマテーウスが驚いて悲鳴をあげる。騒ぎは誰もが知るところとなり、ユリウスは編入三日目にして懲罰室行きとなったが、殴り返したことでカスパーも同罪と見なされた。