恋で死ぬ。かもしれません

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10. アカリ、金に目がくらむ

「嫌だ」アカリは即答した。そりゃそうだろう。こんな突然で、しかも突飛な頼みを二つ返事で受けるような人間がこの世のどこにいる。しかし蒔苗は、アカリに断られたことがさも心外であるかのように眉根を寄せた。
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9. 蒔苗はセックスがしたい(らしい)

コントのようにパイプ椅子から転げ落ちたアカリに「どうしたんだ急に」と蒔苗が助けの手を差し伸べる。まさか原因が自分にあるとはこれっぽっちも思っていない態度だ。「いや、いいんじゃないですかね。セックス」よろめきながら椅子に座り直し、アカリは言う。
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8. 対話の可能性

一体、何が起こっているのだろう。なぜ俺は今、こんな真夜中の映写室で、蒔苗と二人きりで互いの性癖について話をする羽目になっているのだろう。アカリ自身、これまで性志向についてはそれなりのマイノリティに属するのだと思って生きてきたが、やはり世界は広い。この一見地味で目立たない無個性な大学生である蒔苗がなんと「屍体愛好者」だというのだ。死体に欲情する性向自体は聞いたことがあったが、正直アカリはそれをフィクションの世界のものだと思い込んでいた。
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7. 蒔苗聡の秘密

蛇ににらまれたカエル状態のアカリは、リュックを後ろから引っ張られたまましばらく硬直していた。しかし、いくら待っても蒔苗がそれ以上のアクションを起こさないので不思議に思いそっと振り向く。いた。いや、そこにいるのは当たり前なのだが、たった今までスプラッタ映画の惨殺シーンを観ながらオナニーに耽っていたとは思えない、一切の後ろめたさすら感じさせないいつもどおりの能面ヅラで、そこには蒔苗が立っていた。
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6. 続・真夜中、映写室

「お、お、お、おまえ一体な、何を」アカリの声は、スピーカーから響く獣人の咆哮となんとも奇妙なハーモニーを奏でる。画面に夢中になっていた蒔苗はその声にようやく侵入者の存在に気づいたのか、自慰の手を止めて入り口の方を振り向いた。「あ」