雨を待つ国

雨を待つ国

21.  王殺し

やがて溶けた体が元どおりに戻る感覚があり、気づけば〈王殺し〉は北の塔の中にいた。一瞬、入り込む場所を間違えたのかと思った。というのも、そこは薄暗く冷たくじめじめとした狭い場所で、王の祈りのための神聖な場所というよりはむしろ牢獄のように見えたからだ。しかし、先ほど塔の外側で聞いた宰相と筆頭賢者の怪しげな会話を思い出すと、彼らが〈少年王〉をこんなひどい場所に押し込めてしまうのも不思議はないような気がしてくる。
雨を待つ国

20.  王殺し

〈少年王〉は眉根を寄せて、言葉を続ける。「毎日、午後に北の塔の地下室でお祈りをするんだ。国や人々のために一生懸命祈っているつもりなんだけど、最近どうしても……。もしかしたら雨が降らないのも、僕がちゃんと祈れていないからなのかもしれない」あいまいな言葉のみで〈少年王〉は、それ以上話を続けようとはしなかった。疲れたように黙りこんで、やがて前の晩と同じように〈王殺し〉の体にもたれて眠ってしまった。
雨を待つ国

19.  王殺し

急に〈少年王〉が寂しそうな顔をするので〈王殺し〉は焦った。気持ちよくうつらうつらしていたのに、眠気も一気に覚めてしまったくらいだ。一体どうしたというのだろう。満面の笑みを浮かべて〈王殺し〉を寝台の下からおびき出して一緒に食事もした。楽しそうに体を拭いてくれていたのに突然憂鬱そうな顔を見せるのがなぜなのかはわからないが、彼が自ら口にした「ひとりぼっち」という言葉に反応していることは、おぼろげに理解できた。
雨を待つ国

18.  少年王

食事を終えると〈少年王〉は、なくなっても気づかれないような古い衣服を探し出して水で湿らせると獣の体を拭き清めることにした。お湯で洗ってやれれば良いのだろうが、侍女たちに湯浴みの後の浴槽をそのままにしておいてくれと頼めば、さすがに不審に思われてしまうだろう。「冷たかったらごめん。お願いだからじっとしていて」腹がいっぱいになり眠くなったのか、床にくつろいだ獣の目は少しとろんとしているようだ。近づいて触れてもとりたてて抵抗する様子もないので〈少年王〉は思う存分その温かさを堪能することができた。
雨を待つ国

17.  少年王

その日もいつもと変わらない一日だった。人形のように体を洗われ飾り立てられてから、昼にはバルコニーに立つ。それが終わればまた忌まわしい祈りの時間がやってきて「あれ」が体中を這い回る。もちろん、雨は降らなかった。何か少しでも違いがあったとすれば、〈少年王〉が宰相も賢者たちも侍女たちも誰ひとり知らない秘密を手にしたことくらいのものだ。