サクラ踊る踊る

第1話

耳ざわりな電子音が枕元から響いてくる。十分おきに三回かけた目覚ましはさっき全部止めたはずだし、もちろんスヌーズだってオフにしている。……ということは、これはきっと気のせい。安島圭一は頭まですっぽり布団の中に潜りこんで幻聴をやり過ごそうとするが、単調な音があまりにしつこく続くものだからとうとう堪えきれずに腕を伸ばすと枕元に置きっぱなしだったスマートフォンを手にした。
醒めるなら、それは夢(番外編)

ハンブルク帰郷編(4)|1956年・西ベルリン

れはあるものの、それ以上にユリウスの心は満足感でいっぱいだった。「コーヒーを淹れるから、君はゆっくりしてて」部屋に入ると、そう言ってニコはすぐにキッチンに入った。夕食は帰る途中に空港で軽く済ませてきた。いや、正確にはあまりにも胸がいっぱいで注文した料理もほとんど喉を通らなかった。本当はずっと父親のことを気にしていた。他人の家族を奪うことに手を貸した自分に親の心配をする資格などない――そんな言葉でごまかして、実のところはただ怖くて恥ずかしかっただけだ。
お知らせ

「雨を待つ国」完結しました

ムーンで書きはじめてから2ヶ月弱、お付き合いいただきありがとうございました。「触手を書いてみたい!」という欲望を満たすための読み切りのつもりで作りはじめた話ですが、内容分量共にかけ離れた場所に着地してしまいました(そして触手ものの才能がないことを知る)。もともとグリム童話みたいな...
雨を待つ国

36.  王殺し

銀色の髪に顔を埋めると、そこからは嗅いだことのないようないい香りがした。〈王殺し〉が思ったままを告げると〈少年王〉は「香油だよ」と言う。「侍女たちが、風呂上がりにあちこちにつけたんだ。髪を梳くときにも使ったからきっと一番強く香りが……あっ」
雨を待つ国

35.  王殺し

鳥の声で〈王殺し〉は目を覚ました。いつの間にか夜になり、そして朝が来ていたようだ。洞窟の入り口から太陽の光が差し込み〈王殺し〉と〈少年王〉のいる場所もうっすらと明るくなっている。固い地面に横たわり、しかし疲れ果てているからか〈少年王〉はすやすやとよく眠っている。再びこんな近くで寝顔を眺めることができるとは思わなかった。言葉にならない幸福感に〈王殺し〉は眠る少年の頬を舐めようと顔を寄せ、そこで、異変に気付いた。