雨を待つ国

11.  少年王

眠れない。〈少年王〉は天蓋のついた大きな寝台の中で何度も寝返りばかりを繰り返した。午後の祈りのせいで体も心もくたくたに疲れているのに睡魔はちっとも訪れず、不眠は日々ひどくなるばかりだ。「はあ」祈りの時間に〈あれ〉に蹂躙された後はいつも意識を失ってしまう。そして目を覚ますと不思議なことに、乱れた衣服も汚れた体も嘘のように元どおりになっているのだ。まるで〈あれ〉が現れたことなどただの夢だったかのように。
醒めるなら、それは夢

80. 第5章|1950年・ミュンヘン

ユリウスは独房で目を覚ました。殺風景な狭い部屋。固いベッド。食事の配膳やたまの面会以外は他人の顔を見ることもない。だが、そんな拘置所での生活にも慣れ、最近ではむしろ心地よさすら感じる。じき裁判が行われ、刑務所に行けば大部屋暮らしになるだろう。ひとりきりの静かな生活も今だけなのだと自覚してからは、なおさらここで過ごす時間は貴重に思えてきた。
醒めるなら、それは夢

79. 第5章|1950年・西ベルリン

さんざん悩んだが、ニコは結局イレーネを訪ねることにした。連絡先はブルーノが教えてくれた。もしイレーネがレオを裏切ったというのが本当なのであればニコが会いたいと言ったところで簡単に応じてくれるはずもないだろうと思っていた。しかし電話に出たイレーネは意外にもニコの希望をあっさりと聞き入れて「あまり人目につくのは嫌だから」と、平日の昼間に自分の家に来るように言った。ニコはその日仕事を休まなければいけなかった。
雨を待つ国

10.  王殺し

「やめておくれ、別に悪いことはしちゃいないよ」老婆は果敢にも言い返すが、形勢不利であることはあまりに明白だ。「うるさい。ここは王都、神のお住まいになる場所だ。乞食が商売するような場所じゃない。ぶっ殺されたいか、老婆め」
醒めるなら、それは夢

78. 第5章|1950年・西ベルリン

ユリウスの裁判の話は、ニコの心の中に引っかかり続けた。彼があの恐ろしく残虐なナチ親衛隊の一員であったのは確かだし、ニコは彼が移送されてきた人々の命を選り分けている現場にすら立ち会った。罰を受けるのはある意味当たり前のことで、死刑になるわけでもないのだから気に病む必要はない。自分自身に何度もそう言い聞かせて、しかしハンスの残していった弁護士の連絡先を処分することもできないまま数日が経った。