醒めるなら、それは夢

49. 第3章|1941年・ハンブルク/ベルリン

夏の休暇にユリウスはほぼ一年ぶりにハンブルクに戻った。とりたてて郷愁があるわけではないが実家以外に行く場所もない。それに、もしかしたらニコから新しいはがきが来ているのではないかという期待もあった。しかし家にあったのはナタリーからの手紙が一通だけで、父が不在の隙を狙って書斎もひととおり漁ってみたが、ニコからの連絡の形跡は見つけることができなかった。
恋で死ぬ。かもしれません

32. 蒔苗、生きているアカリに触れる

裸の背中を後ろに傾けると蒔苗の胸と密着する。蒔苗は服を着たままなのだが、夏物の薄いシャツ一枚だけを挟んでじわりと体温が伝わってくる。もちろん蒔苗にもアカリの体温が伝わっているはずだ。蒔苗の手を取って半ば強引に自分の体の前に回す。アカリは後ろから蒔苗の腕の中に抱きすくめられるような形になるが、当の蒔苗は落ち着かないのかすぐに手を離し、サイドテーブルのリモコンに伸ばそうとする。
恋で死ぬ。かもしれません

31. 甘い水

どうしようもない渇きに、勢いに任せて「セックスがしたい」と迫る……というか懇願してみたものの、返ってきたのは実に中途半端な回答だった。「手伝うくらいなら?」「ああ。手伝うくらいなら。だって自分の手じゃダメなんだろ」再確認して、もう一度蒔苗の返事を噛みしめる。
醒めるなら、それは夢

48. 第3章|1941年・クラクフ

眩しくてニコは目を覚ます。この部屋にはカーテンがないから夜明けが早まるにつれて目覚めの時間も自然と早まってしまう。体はいつもくたくたに疲れているからできることならもっと寝ていたいのだが、常に神経が高ぶっているせいで毛布を頭まで被っても二度寝をするのは難しい。この部屋に欠けているのはカーテンだけではない。小さな台所にかろうじて煮炊きのできる小さなストーブと水道、あとは狭い居室にベッドがあるだけで、それ以外の人間の生活に必要なもの――ほとんどすべてが欠損している。
恋で死ぬ。かもしれません

30. アカリ、襲撃

「なんだ、やっぱり酔ってるじゃないか」玄関先に現れたアカリを見て、蒔苗は呆れたように言った。それは決して誤解でも間違いでもない。今から行くと威勢良く電話を終えて、勢い込んで終電で蒔苗のマンションの最寄駅まで来たものの、当初の興奮が冷めるにつれて本当にこれで良いのかという不安が湧き上がる。アカリは、再びテンションを上げるために近所のコンビニで適当に度数の高価そうな酒を買い漁り、店先でぐっと一本飲み干してからここにやってきたのだ。