恋で死ぬ。かもしれません

22. 恋とは落ちるもの

帰国すればもう八月。試験と合宿でアルバイトに入れない日々が続いたので、後期の授業料納入に向けてここからがアカリにとっては稼ぎどきになる。指導教員である倉橋がいないので八月いっぱいはゼミも休み、もちろん自主研究があるので自由にゼミ室や設備は使えるが、毎日大学に行く必要はない。アカリは正直ほっとしていた。なぜなら、これでしばらく蒔苗の顔を見ないですむからだ。合宿代という予想外の大きな出費があったのでうっかり誘いに乗ってしまったが、これからは普段のバイトで地道に稼げば、もう蒔苗からの危険な誘いに乗る必要もない。
醒めるなら、それは夢

44. 第3章|1940年・ハンブルク

ユリウスが「ナポラの編入試験を受けたい」と告げると、父親は「冗談を言うな」の一言で却下した。父と息子がまともに会話を交わすのは数ヶ月、いや一年以上ぶりだった。この件については、ユリウスは父親が賛成するか反対するか、あらかじめ想像することがまったくできなかった。
恋で死ぬ。かもしれません

21. 指先から火花

翌朝、アカリは寝不足のぼんやりした頭を抱えて大学へ向かった。前の晩はうきうきで動画を観はじめて、そして……。「おい、明里」「うわああああああっ!」「なんだ、大げさに」顔を上げると、そこには蒔苗がいた。
恋で死ぬ。かもしれません

20. ここから先、危険

蒔苗はそっとアカリの頰に、閉じた瞼に、それから額に口付けた。外国の映画で親が子供にしてやる「おやすみのキス」のような、軽くて優しく、けれど愛しさのこもったキス。――なんだ、これ?アカリは身を乗り出してノートパソコンの画面を凝視する。そして、アカリが見つめる中で蒔苗は、耳に、首に、鎖骨に、次々とキスの雨を降らせていった。
醒めるなら、それは夢

43. 第3章|1940年・ハンブルク

学校から帰ったユリウスに、通いの家政婦が「お父様は今日も遅くなるそうです」と伝えた。父親が早く帰ろうと遅く帰ろうとユリウスにとってはどうでもいいことだ。いや、同じ空間にいる時間が少なくてすむだけ帰宅はむしろ遅い方が望ましい。戦争がはじまり、開戦以前と比べても父の工場は忙しくなった。最近では政府の要請もあり軍需品生産のためラインを増やしているようだ。