恋で死ぬ。かもしれません

6. 続・真夜中、映写室

「お、お、お、おまえ一体な、何を」アカリの声は、スピーカーから響く獣人の咆哮となんとも奇妙なハーモニーを奏でる。画面に夢中になっていた蒔苗はその声にようやく侵入者の存在に気づいたのか、自慰の手を止めて入り口の方を振り向いた。「あ」
恋で死ぬ。かもしれません

5. 真夜中、映写室

「そういえばアカリくん、これ興味あるんじゃないかな」ゼミが開始して数週間が経った頃、アカリは倉橋教授から一枚のDVDを渡された。ラベルの貼られていないディスクを手に首をかしげていると、倉橋は散らかった机の上を探って数枚のコピー用紙を束ねたものを探し出した。それはどうやら映画のプロモーション資料のようだった。
醒めるなら、それは夢

35. 第2章|1939年・ハンブルク

年が明け、街の空気は表面上落ち着いていた。|水晶の夜《クリスタルナハト》以降は目立ってユダヤ人が暴行を受けるような事件も起きてはいない。だが、少し考えればそれが厳しい外出制限や多くの場所への立入制限により街にユダヤ人が出てこなくなったためであるのは明らかだった。父親はユリウスにグロスマン家への立入を禁止した。とはいえその言いつけは限りなく実効性の薄いものだ。経営する機械部品工場が急に忙しくなり、父親の帰宅時間も遅くなったからだ。
恋で死ぬ。かもしれません

4. 蒔苗聡の奇襲

先制攻撃を仕掛けるつもりが、予想外の奇襲攻撃。友達もいないようなおとなしくて地味な奴、ちょっと脅せばどうになるだろうとたかをくくっていたアカリだが、心の準備もない状態で話しかけられるとさすがに動揺する。「え、ひ、人聞き悪いな。何言って……」「じゃあ心当たりはないんだな」
恋で死ぬ。かもしれません

3. 先ずは、敵を知るべし

かくしてアカリは、一番見られたくない場面を見られた相手と同じゼミに所属することになった。倉橋ゼミの新入生は三人。アカリと蒔苗の他は、滝百合子という女子学生がいる。四年生は四人。男女半々でうち一人はシンガポールからの留学生だ。来週にも歓迎会が行われる予定になっているが、何度かゼミに体験参加したことのあるアカリは既に全員と顔見知りだった。百合子も飲み会や同じ講義で顔を合わせることが多く、すでに見知った仲。というわけで、唯一の正体不明な相手が、よりによって蒔苗だったりする。