まぶたに蜜|心を埋める(番外編)

まぶたに蜜|心を埋める(番外編)

32.栄

他人の空似だったらどれほど良かったかわからない。 だが、視界にいるのはどこからどう見ても羽多野だし、肩が触れ合うほどの距離には若い女が寄り添っている。きれいに手入れされた長い黒髪にオリエンタルなメイク。羽多野の元妻である高木リラとはタイプが違う、いかにも「欧米デビュー」した風なあ...
まぶたに蜜|心を埋める(番外編)

31.栄

気分転換するつもりでオフィスを出たのに、自席に戻った栄はさっき以上に落ち込んでいた。 いくら追い詰められた状況にあるとはいえ、性生活の問題を他人に明かしてしまうなんて、どうかしていたとしか思えない。次にジェレミーに会ったとき、どんな顔をすればいいのだろう。 二度と会わない、という...
まぶたに蜜|心を埋める(番外編)

30.栄

「はー……」 自分の口からこぼれたため息の大きさに自分で驚いて、はっと顔を上げると同室の久保村とトーマスがこちらを見ていた。「あ、いや何でもないです」 気まずさから愛想笑いを浮かべて再びPCに目を落とす。ため息ばかりついているがどうかしたのか? ため息をつくたび心配の声をかけられ...
まぶたに蜜|心を埋める(番外編)

29.羽多野

狙いは甘く、紙屑はこつんと縁にぶつかってゴミ箱を揺らしてそのまま床に落ちた。 このまま小娘の癇癪に付き合うか、それとも無視してアペリティーボへ向かうか。本心は後者だが、インターン指導役としての保身が頭をちらつく。「そんなに焦らなくたって、何なら一度帰国して日本から仕事を探すって方...
まぶたに蜜|心を埋める(番外編)

28.羽多野

目を覚ました羽多野は枕元に置いた時計で時間を確かめる。アラームをセットしてある時刻よりはまだ早い。ここ数日、覚醒が早い気がするのは酒量を抑えているからだろうか。 ベッドの隣には、人ひとり横たわれるスペースがすっぽり空いている。 離婚して以来の長い年月をひとりで過ごした。日本ではダ...