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49. 栄

「谷口、今度の水曜に中森と飲むんだけど時間あればおまえも来いよ。定時退庁日だし、いまの予算委の感じだったら国会も当たんねえだろ」自席にふらりと立ち寄った同期の矢頭から「中森」という名前を聞いた瞬間、栄はあまり面白くない気分になった。
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48. 栄

終電で帰宅するとリビングに明かりがついていた。ドアを開けると、ダイニングテーブルに座って何やら作業していた尚人が顔を上げる。「あ、おかえり栄」「ただいま。ナオ、まだ起きていたのか」「うん、授業の準備とか書類仕事とか。もうちょっとだけ」
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47. 栄

「ですから、あなたは説明を果たしたっておっしゃいますけど、そこを着地点にされたら困るんです。地方が大事だって言うなら一方的な説明だけでなく既存の産業や地元の声もちゃんと受け入れてくださいよ」狭い会議室で、身を乗り出してくる男の顔が近い。潔癖気味の栄としては唾が飛んでくるのではないかと気が気ではないが、そんな素振りを見せたが最後、場は収拾不能なレベルで炎上するだろう。
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46. 未生

食事の後に尚人を再びベッドに押し込んで、そこからいつまで抱き合っていたのかは記憶にない。未生は体力には自信がある方だが、それでも最後は電池が切れるように眠りに落ちていた。セミダブルベッドの隣ではまだ尚人が寝息を立てている。寝顔くらいもう少し安らかだっていいのに、悪い夢でも見ているのか眉間にしわを寄せて何やら難しそうな顔をしている。
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45. 未生

スマートフォンを手にした尚人の表情に狼狽が走るのを見て、未生は電話の相手を察した。と同時にいくらかの驚きを感じる。最初に寝た夜に尚人からの電話に一切反応しなかった男が向こうから連絡してくるなんてどういう風の吹き回しだろう。「出ろよ。俺は外すから」