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44. 尚人

ようやく繋がりを解かれた尚人は、大きくひとつ息を吐いてからゆっくりと目を開けた。腰には重苦しいだるさがあり、受け入れていた場所は激しい抽挿のせいでひりひりと痛んだ。ちらりとベッドの脇に目をやると、フローリングにはぞんざいに口を結んだコンドームが三つ転がっている。尚人は一度もつけなかったはずだからこれは全部未生の分で、少なくとも彼は尚人の中で三度達したということになる。だが未生の普段の強引さを思えば、毎回律儀にゴムを付けてくれることだけでもじゅうぶん紳士的に思える。
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43. 尚人

窓にはすでにシャッターが下りている。玄関だってちゃんと施錠しているはずだが、それでもホテルで体を重ねるのとは全然違っている。万が一、万が一にでも何かの間違いで未生の家族が戻ってきたらどうしよう。ソファに押し倒されながら尚人は不安で落ち着かない気持ちのままでいた。しかし未生は尚人の動揺をむしろ面白がっているかのように早急に手を伸ばし、ニットとその下に着ているシャツをまとめて捲り上げると胸元に口付ける。
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42. 尚人

大晦日の朝、栄は一泊分の荷物を持って実家へ向かった。例年のこととはいえ尚人をひとり残して行くことに申し訳なさそうな様子で、だからこそ尚人は何でもない振りをして笑った。一昨日の晩、寝室にやってきた栄が途中で行為をやめたことは尚人の心の中に漠然とした不安となって引っかかっている。
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41. 尚人

「そういえば、ナオは今年も正月は帰らないのか?」思い出したように栄に訊かれて、尚人は首を振った。今年も残すところは三日になり、栄は昨日が御用納めだったが尚人は三十日まで授業の予定が入っている。とはいえすでに年末の帰省をはじめた生徒も多いので帰宅時間は普段より早く、今日は珍しく九時前に二人で食卓を囲んでいた。
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40. 栄

電話を終えた笠井志郎はすっかり集中力を切らしたようだった。栄は素知らぬ顔で資料を手に説明を再開するが、もはや話を聞こうというポーズすら見えない。「まったく、これじゃ話にならん」一体何が話にならないのかについてはまるで説明のないまま資料をテーブルの上に放り出すと、笠井は話を打ち切る態度もあからさまに眼鏡をはずして胸ポケットにしまい込んだ。