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39. 栄

クリスマス前には来年度予算案も無事閣議決定されて、課内の空気も完全に年末モードに入った。こういうときこそ尚人より先に帰って家事のひとつでも、というのはあくまで理想に過ぎず、短い閑散期こと年末となると連日のように忘年会の誘いが入る。行っても二次会まで、終電で帰る、と自分にルールを課してはいるものの栄は思い描いていたほど帰宅時間を早めることができずにいた。
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38. 栄

まっすぐ帰宅した栄だが、鍵を開けると部屋の中に人影はない。改めて腕時計を見ると時刻は十時半を回ったところだった。九時から十時のあいだには帰宅することの多い尚人にしては遅い。以前の栄だったらこの程度の遅れは気にしないところだが、先週の一件があった後だけに神経質になっていた。
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37. 栄

「いやー、やっとこれで年末って感じですよね」背もたれが壊れかけた椅子の上で大きく伸びをしながら、大井がここしばらく耳にしたことのない爽やかな声を上げた。「その前にクリスマスもありますよ、係長。彼女さんへのプレゼント何にするんですか?」
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36. 未生

柄にもなく未生は動揺した。過去にもセフレ同士が鉢合わせた経験は何度かあるが、よりによっていま落とそうとしている相手と、別れを告げようとしている相手が一堂に、というのはどう考えても最悪だ。「映子、おまえ何でここに?」
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35. 未生

尚人の所属する家庭教師事務所の住所は渋谷の果てにある雑居ビルにあるらしい。退屈な午前中の講義のあいだに未生はマップで場所を確認しておくことにした。ついでにふと興味が湧いて社名を検索してみると、すぐにウェブサイトが見つかった。ベスト・チューター・ネットワークという芸のない横文字名の会社は初めて耳にした。家庭教師ならばもっと大手の派遣会社がいくらでもあるような気がするが、尚人にしろ真希絵にしろなぜこんな小さなところを選んだのかという疑問は、サイトを見るうちにある程度解消できた。