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104. 尚人

栄の前では平静を装ったとはいえ、選挙後最初に笠井家を訪れるにあたっては尚人の中にもそれなりに戸惑いがあった。テレビ越しにうなだれた姿を見た後だけに、真希絵と顔を合わせたときに何か言うべきなのか、それとも選挙の話題はあえて避けるべきなのかはとりわけ悩ましかった。 しかし、いざ笠井家...
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103. 栄

八月上旬の日曜日、大安吉日に大井の結婚式が執り行われた。 倒れる前に一緒に仕事をしていた面々が久しぶりに一同に顔を合わせたことで同窓会的な雰囲気もあり、参列した栄も楽しい時間を過ごすことができた。 山野木佳奈は六月いっぱいで退職し翌月には渡米した。九月に始まる大学院の授業に備えサ...
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102. 未生

未生が帰宅するのを待ちかねていたかのように優馬が部屋に飛び込んできたのは数日後のことだった。「未生くん、大ニュースだよ!」 弾んだ声でそう告げると、定位置であるベッドの上に飛び乗ってくる。「何だよ、でかい声出して」 自然体で話しかけてくれるだけで嬉しいのだが、未生はわざとらしく呆...
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101. 未生

「あれ、笠井? 久しぶりじゃん」 背後から声をかけられて未生は振り返る。相変わらず調子良い笑顔を浮かべて、そこには古賀樹が立っていた。「そういえば、そうかもな」 未生はそうつぶやきながら記憶を手繰る。最後に樹の顔を見てから軽く一ヶ月は経つだろうか。そもそも例の騒動のせいで未生は三...
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100. 尚人

優馬の元を訪れた翌日、尚人は笠井真希絵からの電話を受けた。申し訳なさそうに前日の夫の態度を謝罪し、改めて優馬と話をしてくれたことを感謝する内容だった。「先生のおかげで夫ともしっかり話をする覚悟ができました。本当にありがとうございました」「そんな、僕も感情的になって失礼な言い方をし...