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84.  未生

未生は迎えの運転で夕方に自宅に戻った。迎えに来たのは父の事務所でアルバイトをしている女性で、見覚えはない顔だったが彼女の側は未生のことを知っているのだろう。ホテルのロビーに入ってくるとキャップを目深に被った未生の方へ迷うことなく近づいてきた。「どうも……」
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83.  未生

週刊誌の記事が出てからもうすぐ一週間になる。その間未生は父の事務所が手配したホテルに留まり、大学もアルバイトも休んだ。突然のことだったので体一つでチェックインしたようなものだったが、翌日には最低限の着替えと当座の生活費が届けられた。出来るだけ目立たないようにと言われ、食事は早朝を狙ってホテル内にあるコンビニエンスストアに買いに行くかルームサービスで済ます。ほとんど部屋に閉じこもりっきりの生活は退屈そのものだ。
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82.  尚人

事務所で冨樫と出くわすなり、声をかけられた。「相良、あれ見た?」「あれって何ですか?」薄々わかっていながら尚人がしらばっくれると、冨樫は尚人を自分の部屋に呼んだ。
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81.  尚人

「ただいま」尚人が帰宅したのは午後九時過ぎ。ドアを開けて部屋に明かりがついている生活にもようやく慣れてきた。「おかえり」そう返事をする栄はキッチンに立っている。毎晩のようにエプロン姿を見ることにも違和感はなくなってきたけれど、どうしても申し訳ない気持ちを抱いてしまう。
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80.  未生

指定されたホテルへ到着すると、未生はフロントでカードキーを受け取った。羽多野の言うような騒ぎになっているのだとすればホテルのロビーに記者が待ち受けているようなこともあるのではないかと危惧したが、さすがにそれは考えすぎだったようだ。特に誰から注目されることもなく未生はエレベーターに乗り込んだ。