こぼれて、すくって

こぼれて、すくって

第31話

料理もサービスも総じて悪くない店だった。好きなものだけ量を加減して頼むことができるアラカルトを好む栄だが、今回の目的はあくまで下見なのでいろいろな味を確認できるようテイスティングコースを注文した。 ちょうどメインのエビを食べているときに手元に視線を感じた。顔を上げると羽多野がじっ...
こぼれて、すくって

第30話

そして金曜日、栄は何事もなく出勤した。長尾との食事について最初に話したときはやたらと絡んできた羽多野だが、ただ虫の居所が悪かっただけなのかそれとも栄の説明に納得したのか、その後は取り立てて文句をつけるようなこともなかった。 いつもどおりの、どことなくのんびりとした金曜の空気に異変...
こぼれて、すくって

第29話

羽多野が一体何に不満を抱いているのか理解できないし、職場でのちょっとしたやりとりを性的な話題に結び付けられるのは、仕事への姿勢を馬鹿にされているような気すらする。あからさまに機嫌を損ねた栄をしばらくのあいだ難しい顔で見つめてから、羽多野は改まったように切り出した。「谷口くんって、...
こぼれて、すくって

第28話

「そういうわけで金曜は食事済ませてくるので、羽多野さんも勝手に食ってください」「わかった」 長尾との夕食の予定が入ったことを栄が告げると、羽多野はうなずきながらテーブルに置いた紙を手に手を伸ばす。店のウェブサイトをプリントアウトしたものには店の概要や連絡先、地図が書いてある。 そ...
こぼれて、すくって

第27話

「谷口さん、最近調子良さそうですね」 トーマスから声をかけられ栄はキーボードを打つ手を止める。唐突すぎる質問だが、怪訝な気持ちで振り向くと栗色の髪の青年は含意ゼロの笑顔を浮かべていた。「調子……?」「はい、顔色も良いし表情から険が取れたというか。前は一日中眉間にしわを寄せてパソコ...